Skip to content

善意ではある/七海

※学生時代

 

出張に行った地方都市で、ちょっと空き時間ができてしまった。
付き添ってくれている補助監督の人に、このままホテルに行ってもいいですがどうしますか、と尋ねられて、あきらは左に座る同級生二人を振り返り、ぱあっと目を輝かせる。

「せっかくだから観光しようよ!」

まだ真っ昼間だ。車の外には結構たくさんの人が行き交っており、興味をそそられる店もものもそれなりにある。ホテルに行ったって仕事に出かける夜までごろごろしているしかないんだし、そんな無為な過ごし方をするよりは、学生らしく遊びたいと思ったのだ。

「いいね!!」

そう笑顔で答えてくれたのは、七海を挟んで一つ向こうに座る灰原である。
賛同してくれたことに感謝の意を示してハイタッチをいえーいと一回、目の前で鳴ったパチンと言う音に、七海がはあと小さく息を吐いた。

「ね、七海も」
「せっかくですが遠慮します。二人でどうぞ」

自分を見つめてくる同級生二人と目を合わせず、七海は正面のサイドミラーに視線を向ける。

「夜に備えてホテルで休みます」
「わかりました。ではこのままホテルに向かうので……灰原君たちはホテルの場所わかりますか?迷子になったら電話してくださいね」

そっけない七海の答えを聞いてぱちぱちと数回瞬きをした後、とりあえずはーいと返事をする。そのまま七海を車内に置いて、あきらたちは車を降りた。
去っていく車に手を振ってみたが、きっと見ていないだろう。

「……七海、どうしたんだろう」

灰原が随分小さくなった車を見ながら、ちょっと心配そうに言う。

「最近出張続きだもんねぇ。参ってるのかも」

あきらも同じく心配そうに返した。

呪術師は結構ハードな職業である。心身ともにそこそこ図太くないと、この繁忙期を乗り切ることは難しい。
厄介なのは、普通の仕事のように、気遣ったり仕事をこっちにもらったりして、負担を軽くすることができないということだった。七海が疲れているとこうして気づいても、休んでて大丈夫だよと言ってあげられるほど、あきらも灰原も強くない。

すっかり観光どころではなくなって、灰原が眉尻を下げる。
あきらもできることはないかと頭の中を探して──それでひとつ、思いついた。

「ねえ、灰原」

途端に笑顔を取り戻したあきらが、楽しそうに口を開く。いいこと思いついたんだけど、と言う同級生に、灰原もまた表情を明るくした。
 

**
 

観光する、と言っていたわりに、二人はすぐにホテルへとやってきた。
いつも通り割り当てられた二人部屋で、少し仮眠をとっていた七海は、灰原と、何故かボストンバッグを持ったあきらが部屋に入ってきた音で浅い眠りから覚める。起こしちゃった、ごめんという申し訳なさそうな声の後、あきらがあのねと言葉を続けた。

「──は?」

それを聞いて、七海の眉間に皺が寄る。

「もう一度言ってください」

何かの間違いであってくれと願ってそんなことを言った。
けれどそんな思いも虚しく、

「だからさ、七海、今日私と部屋変わろうよ。私灰原と一緒の部屋で寝るし」

あきらは七海の態度を気にした様子もなく、にこにこ笑ってもう一度同じ提案を告げた。灰原も同じくまっすぐな目で、うんうん、と同意している。

「……どうしてそんなことになったんですか」

一応理由を聞いてみることにする。灰原が口を開いた。

「最近出張続きだろ。ホテルの部屋割り、僕と七海で二人部屋になることが多いけど、七海は一人の時間が必要な人だから、あんまり疲れが取れてないんじゃないかと思って!」
「よく五条先輩に一人にしてくださいって言ってるもんね。その点私は一人部屋だからちょうどいいかってことで」

「こんなことくらいしかできないけどさ」と続けた灰原に、あきらが頷く。

「…………」

顔を見合わせて通じ合っている二人が七海を気遣ってくれているのはわかっていた。心配をかけていることを申し訳ないと思いこそすれ、迷惑だとは思わない。

けれど頼むからもう少し考えてほしい。
部屋割りがなぜそう分けられているのかとか、自分たちの性別や年齢のことなど、いろんなことを。

「私も灰原も元気だし、誰かといても全然平気だから!」
「ホテルでくらいリラックスするといいよ!」

どこまでも善意しか見えない同級生二人の様子に、七海はハーッと大きく息を吐いて、「いいわけないでしょう」と言った。