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呼び出し/五条

※学生時代

 

夜、部屋でごろごろしているときに、ふと近くから歌が聞こえた。メールの着信音に設定している着うただ。手を伸ばして携帯を取り、パカッと開いて画面を見ると、五条からメールが来ていた。

『次の休みどこいく?』

絵文字も何もない、そっけないそれを見てあきらは思わずにやにや笑ってしまう。すぐにポチポチと返事を打った。

『映画見たいやつあるとか言ってなかったっけ』
『あー、もう公開だっけ』
『それ見てなにか甘いもの食べよ』
『オッケー』

とんとん拍子に決まるデートの予定に、あきらの機嫌はどんどん良くなっていく。舞い上がるような気分の中、忘れるところだったと慌てて次のメールを打った。

『待ち合わせどこにする?』

五条も当然とばかりに、『渋谷にするか』と返す。続いて待ち合わせの時間を決め、前はあきらが早めに高専を出たので、今回は五条が早めに……ということまで決めて、やっと予定が整った。

「えへ」

顔をだらしなく緩めて笑うと、あきらはごろんとベッドに寝転がった。

 

同級の五条と、周りには内緒で付き合い始めてから、しばらくが経っている。

御三家の坊ちゃん育ちのわりに意外と価値観が庶民的な五条は、強さを鼻にかけている節はあるがそこそこ話しやすい人間で、マンガや音楽など結構趣味も合う。同じ寮に暮らし、同じことを学び、時に助けてもくれる五条と仲良くなるのにそんなに理由はいらなかったし、そこからもう一段進んで、恋愛の意味で気になり出すのにもそこまで時間はかからなかった。

そしてそれは五条も同じだったらしい。たまたま教室に二人きりになった放課後、「もしかしたら好きかも」と言われた時、あきらは少し驚きながら、「私も好きかもしれない」と返した。

硝子達にも内緒にしているのは、付き合いが続くかがあきら達にもわからなかったからだ。
そもそも告白の言葉でさえ曖昧だったし、友達としては好感が持てても、恋人としてはちょっとなんて話はよくあることだ、とあきら達は理解していた。だから駄目だったらすぐ別れようと言う話をした。
そんなすぐに解消されるかもしれない関係を、たった二人しかいない同級生たちに報告するのは、どうも気が引けたのだ。

──まあ最初はそうだった。

結果的にそれは杞憂だったわけで、今もにやにやと幸せそうに笑うあきらが未だに報告とやらをきちんとしていないのは、ひとえに秘密の関係というのが案外楽しかったからである。

寮を出る時間をずらしたり、デートに行った場所のおみやげを普通に持って帰れないのはちょっと不便だが、それはそれ。こっそり夜に抜け出してその辺を散歩したり、同期四人で話している時、不意に目があって笑ったり、そういうことをしている時の楽しさと言ったら。

勿論いずれ報告はしないとなーと思うが、まだしばらくはいいだろ、と言うのが五条と出した結論だった。

 

「──ん?」

顔の横に置いたままの携帯から、もう一度着信音が鳴って、あきらは首を捻った。
また五条かな、と思ったら今度のメールは硝子からで、あきらは首を傾げる。文面は『夏油の部屋集合』で、しかもどうやら送られたのはあきらだけではなく、五条も一緒のようだった。

──夏油の部屋への呼び出しが、硝子から?あきらたち二人に?

あきらはぱちぱちと瞬きをした。何か変だ。同期四人の部屋はそれぞれたまにたまり場になるから、夏油の部屋に呼び出されること自体はおかしくもなんともないのだが、それを硝子が言うというのが引っかかる。
とりあえず行こうかな、と体を起こしたところで、今度は普通に着信があった。五条から。

「どしたの?」

声を潜めた五条が『メール見た?硝子からのやつ』と尋ねてくる。

「うん。何だろうねー。今から行こうと思ってたとこ」
『これさ、俺わかっちゃったんだけど』
「え?」

のんきなあきらの口調に対して、五条はなんだか興奮気味だった。なに?と尋ねると、隣の夏油の部屋を気遣ってか小さな声で、けれど力強く、『アイツら付き合ってるんじゃね!?』と五条が言った。

「え!?」
『だっておかしいだろ、なんでわざわざ硝子が傑の部屋に俺ら二人呼び出すんだよ』
「……確かに!てことは、報告!?」

ちょうど同じことを疑問に思っていたあきらには、五条の言葉はこれ以上なく筋が通って聞こえた。降って沸いたような恋愛話に、五条とあきらは自分たちのことを棚に上げてわくわくと盛り上がる。

「ど、どうしよ、お祝いしないと。お菓子持って行こうかな」
『俺コーラ持ってく。ていうかさ、この際』

俺達も付き合ってるって言っちゃえばいいんじゃね、と言い出す五条に、そうしよう!とあきらは力強く頷いた。
 

**
 

部屋に買い置いていたお菓子をビニール袋に詰め込んだあきらは、呼び出しを受けた夏油の部屋を一旦通り過ぎ、五条の部屋の前に立った。そこでコーラの大きなペットボトルを手に持った五条と落ち合い、にやにやと気持ちを抑えきれない笑みを浮かべる。

「硝子たち驚くかな」
「驚くだろ!つーか次の休み、映画やめてみんなでどっか行くか」
「ダブルデートってやつ……!?」

いい!最高!とテンション高く小声で笑いあってから、ようやく二人は夏油の部屋の前に立つ。五条が咳払いをし、扉をノックして、笑いをなんとか引っ込めて「傑ー」と呼んだ。

「二人とも、随分遅かったね」
「寝てたからな」

平然と言った五条の後ろで、あきらもうんうんと頷いた。夏油があきらと五条の荷物に気づき、どうしたんだいそれ、と首を傾げる。

「え!ま、まあせっかくだから、みんなで食べようと思って」
「へえ」

夏油は深く突っ込まず、とりあえずなんだかそわそわした雰囲気の五条達を部屋へと迎え入れた。

「あ、やっと来た」

見慣れた夏油の部屋のベッドを背にしてくつろいでいた硝子が、大きな瞳で訪問者たちを見る。その様子を見てあきら達の中では夏油と硝子付き合っている説がさらに強固になった。

そこ座って、と言われて、五条と一緒にいそいそと机の前に座る(なぜか正座)。五条のコーラを目に留めた硝子がコップを出してきて四人分注いでくれた。
机を挟んで反対側に、硝子と夏油がこちらも並んで座った。

「あのさあ」

そして本題。

なんでもないフリをした五条が、なんなんだよいきなり、と言いながらコップに口を付けた。硝子があきら達をじーっと見て、口を開く。

「あきら達、ぶっちゃけどこまでやったの?」
「!?」

五条がコーラを吐き出した。あきらもびっくりして口をあんぐり開ける。ゲホゲホと咳き込む五条の代わりに、「え?え?なんで?」と半ばパニックのあきらが聞くと、

「なんでバレてないと思ってるのか、聞きたいのはこっちだよ」

と夏油が続けた。硝子がねー、と同意する。

「六月の終わり頃からだろ、付き合ってるの。二人とも態度が変わったし、すぐわかる」
「夜たまにこっそりどっか行くじゃん。休みに出かけるとき、行きは別だけど帰ってくる時は同じくらいの時間だし」
「そもそもこの寮、壁が薄いからね。電話してる声とか聞こえるよ」
「いつ言ってくるんだろって夏油と話してたんだけどそんな気配全然ないからもうこっちから聞いとこうと思って」

次々とあげられる根拠と、うまく誤魔化せていると思っていたのが自分たちだけだったという事実にあきらは顔を真っ赤にして、どんどんその場で縮こまる。「オマエらは!?」となんとか息を整えた、苦し紛れの五条が吠えた。

「はあ?」

何言ってんだこいつ、という顔をした硝子と夏油が、「私たち?」「何にもないけど」と平然と言った。