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伊地知と話す

※学生時代

 

「──オマエ術師やめろ。クソの役にも立たねえから」

そう言われてからは早かった。特に何も手続きをしないうちに、あっという間に伊地知は術師を辞めることになり、代わりに補助監督としての立派な道が用意されていた。多分五条の方で手を回したのだろう。
一応学長から本当にこれでいいのかと意思確認もあったが、伊地知は不思議なほどにあっさりと補助監督としての自分を選択した。術師をやっている自分、補助監督をやっている自分、二つを頭の中で並べてみて、しっくり来るのはどう考えても後者だったのだ。

 

現場への道すがらの雑談として、そういうことがあったのだと、一つ上の先輩術師──高遠あきらに経緯を話す。久しぶりに会ったと思ったら術師をやめて補助監督見習いになっていた後輩を不思議がっていた彼女は、事情を聞くと心の底から嫌そうな顔をして、「まだそんなことやってんだあの人」と吐き捨てた。

「へ?」

武器としている長刀を肩に担ぎ歩きながら、あきらはため息を吐いて、「私も一回五条先輩に言われたことある。術師やめろって」と続けた。
あきらは二年になってからの編入生で、だから実質高専にいる期間は伊地知とそう変わらない。言われたのは編入してすぐ、五条の任務に同行した時らしい。

「まあ東京に来て最初の実習だったし。実際足手まといではあったんだけどさあ、そういう言い方ないじゃんね。高専戻ったら何したのか知らないけど当たり前に補助監督やるみたいなことになってるし」
「で、でも、術師ですよね?あきらさん」
「そうだけど」
「なんで……」
「だってムカつくじゃん!」

その時の苛立ちを思い出したらしいあきらが吠える。ぎゅっと武器の柄を握りしめ、ぎりっと歯を食いしばった。

「特級がなんぼのもんだっつーの。こっちだって考えて術師やるって決めたのに、他人にやめさせられるなんて冗談じゃないよ。だから学長に術師続けますって直談判して……」

前を見据えながらぶつぶつと呟き続けるあきらを見て、伊地知は目から鱗が落ちたような気持ちになっている。
──同じ人に、同じことを言われ、同じ状況になったのに、自分のように受け入れる人間もいれば、真っ向から撥ねつけるあきらのような人間だっているのだ。
多分こういう人のことを、呪術師に向いている、と言うのだろう。五条が基準にしているところとは、また別のところで。

「──ねえ、伊地知も大人しく言うこと聞く必要なんてないんだからね!?なんなら私が言ってあげようか!?」

正義感と過去の苛立ちの入り交じった口調で言いながら、あきらが伊地知を見た。

「大丈夫です。自分はこちらの方が向いているんだと、改めてわかったので」
「はあ?」

何それ、と術師の先輩が納得の行かなそうな顔をする。伊地知は惚けて、もうすぐ着きますよ、とそんなことを言った。