「高い!」
「重い」
「ヒドい!!」
「うるさい」
図らずも形容詞ばかりになってしまった短い遣り取りを、言葉の持つ意味合いと裏腹にあきらは楽しんできゃははと笑った。
「すごい」
と一言付け加えて、眼下の景色を見下ろしている。桃は変に体重かけないでよ、と一応注意をしておいた。
地上から100メートルかそこら、雲一つない秋晴れの空を、二人は一本の箒に乗って空中散歩と洒落込んでいる。
きっかけは私も飛びたい、二人乗りしよ、というあきらの間抜けな要望で、自分が疲れるだけなので嫌だと断ったはずの桃がこうしてここにいるのは、その後行われたオセロ五本勝負で運が悪いことに負けてしまったからだ。
あきらは案外頭がいい。
ついでに小細工のような術も得意なので、自分たちに目眩ましの術式を施して、目撃者対策も万全だ。そこまでされてしまえばもう、断ることはできなかった。
「う~ん、風が気持ちいいね」
上機嫌のあきらが後ろから声をかけてくる。
普段飛んでいるときはあまり意識しないが、確かに秋の風は少し前までとは違って快適だった。二人が前に進む度、空気の流れが生まれ、髪や服の裾を心地良く撫でていく。
「……交流会」
ふと桃が口を開く。
「うん?」
「出ないの?」
10月に東京校で行われる交流会に、あきらは参加しない。
そのことを桃は受け持ちの教師である庵に聞いていた。しかしあきらからは聞いていないし、一週間後に迫っているにも関わらず一向に報告の気配がないので、今を機会にしてみたのだ。
あきらは少しの間、何か考えるように口を閉じていたが、やがてあっけらかんと言った。
「まあ、人数的に」
「どうしてあきらが削られるわけ」
納得がいかない。あきらはこの京都校で三年を過ごしてきた学生の一人で、過ごしてきた時に見合う腕ももちろん持っている。あきら一人がいないことで、遠退く勝ちだってあるだろう。けれどあきらは出ないという。
「どうしてって……東堂は出れなきゃ暴れるだろうしー、加茂は家的に出ない選択肢がないし。桃は偵察役として必要だし」
「二年を減らすとか」
「誰をー?」
「…………」
「ほらぁ」
「……でも」
言葉に詰まった。自分の発言が現実的ではないことを、よくわかっているから。
でも、交流会はただの行事ではないのだ。
活躍によっては今後の進路が決まる、家との繋がりが弱いあきらのような学生にとっては、重要なもののはずなのに。
「お!見て見て」
言い募ろうとした桃を遮ってあきらが大きな声を出す。後ろからあきらの白い指が伸びてきて、遠くを指した。
「海だあ!」
気づけば見えていたそれに無邪気に喜んで、遊んでいこう貝を拾おうとはしゃぐ。ごまかしているつもりなのか本心なのか、自分より一回り小さな桃の体にぎゅっと抱きついて陽気に強請るものだから、強請られた方の桃は溜息を吐いた。呆れて半目になっている。
「……なんかもうどうでもよくなってきた」
「でっしょー?」
きゃはは、とあきらがまた笑った。桃は箒の柄を少し下に向けて、あきらの指さした方へと向かう。
「綺麗だねえ」
海が太陽の光をきらきらと跳ね返している。上機嫌なあきらの下手な鼻歌が聞こえてくる。後ろには柔らかくて暖かい知った重みがある。
「……そうだね」
きっとすぐに終わってしまう秋の風の心地良さに、桃は少しの間だけ、目を閉じた。
※Petal様提出