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真依は甘えた

実習もないし、出かけたい気分でもないしと、引きこもりを決め込んだあきらは寮の部屋で怠惰の極みにいた。
昼も過ぎるのにまだ寝間着で、鼻歌なんて歌いながら雑誌を読む。菓子でもあれば最高なのだが、生憎部屋にはなかったし、コンビニに行くのは面倒だ。だけどなー、と迷っていたところに、バンッと乱暴な音を聞いた。

「ん?」

自室のドアが開いている。
目を向けた先には、ドアの前で仁王立ちになって下を向く、後輩兼親戚兼幼なじみの禪院真依がいた。

「うわっ、ノックくらいしなよ」
「…………」

当然の非難には何一つ反応せず、真依は下を向いたままズンズン歩いて、あきらの寝転がるベッドへと向かってくる。
早足なこともあってあっという間だった。尋常でない様子に少し身を引いたあきらだったが、悲しいかな狭い部屋なので、次の瞬間には捕まっていた。腹に勢いよく取り付かれ、一瞬うえっと息が詰まる。

「ッ、真依~!」
「…………」

恨めしげに名前を呼んでも真依はまだ無言だ。たいして肌触りもよくないだろうスウェットの生地に顔を埋めて無視を決め込んでいる。細い腕が腰に回され、ギリギリと強く締め付けられてイテテと情けない声が出た。あとため息も。

「……もー」

何を求められているかは手に取るようにわかった。
腹のあたりにある真依の丸い頭を、宥めるようにぽんぽん叩いてやる。

正解だと告げるみたいに、腕の力がほんの少し緩くなった。

「何があったの」
「……何にも」

くぐもった声が嘘を吐く。
しかしあきらはそれを責めずに、今度は優しく頭を撫でてやる。柔らかい手つきで、もう一人の幼なじみとは少し質の違う、細い髪を梳く。
少しずつ力が弱まりだしたので、落ち着いてきてはいるようだ。

頭を撫でている手とは反対の手で、その辺に放っていたスマホに手を伸ばした。
アプリを開いて、同じくこちらに帰ってきているだろう三輪にメッセージを送る。

『プリン三つ。私の部屋。おごったげる』

少し時間が経ってから、『わかりました!』と元気のいい返事があった。全くいい後輩だ、真依と違って。

よし、と思ったあきらがスマホを置いたとき、ようやっと顔を上げた真依が

「甘いものが食べたい」

と言った。タイミングがいい。
フフフと得意げに笑いながら動こうとはしないあきらを、真依が怪訝そうに見上げ、気持ち悪いと暴言を吐く。いつもの調子がちょっと戻ってきたようだ。

「……フフフ」
「やだ、本当に気持ち悪いわよ、どうしたの」

言いながらもちっとも離れる気がない真依をよそに、あきらはもう一度スマホを手にとって、三輪にまたメッセージを送った。

『ノックなしで入ってきて』
『? はい!』

素直な返事に満足して頷く。
十分後が楽しみだと思いながら、真依の頭をまた撫でた。真依は訝しげに眉をひそめながらも、撫でられるのは好きなので、大人しくあきらの手を受け入れていた。

▽十分後ノックくらいしなさいよ!って言いながら慌てて離れる