※白くておっきい猫 続き
猫は時々現れた。
あきらの姿を見つけては思わせぶりに尻尾を揺らし、もったいぶるだけもったいぶって、仕方ないなあふふんとでも言いたげにゆっくりと大きな猫はやってくる。
おかげであきらは高専に行くときは猫用のおもちゃを鞄に入れておくようになったし、猫が喜ぶと評判のおやつもいくつか買った。
いつか隙を見て家に連れて帰ろうと思っているのだが、あの手この手で捕まえてみても、身の危険を感じるとするりと腕から逃げてしまい、未だにそれは叶っていない。
「なんで捕まえられないんだろ」
あきらがぽつりと呟いた。運転をしながらも、なにがですか?とちゃんと聞いてくれるから伊地知が好きだ。
「高専に猫いるの知ってる?」
「猫ですか?」
「白くておっきな」
「へええ」
知りませんでした、と伊地知が答えた。かわいいんだよー、五条も知ってる、とあきらは機嫌良く答える。
「よく目隠し取られてるし」
「……五条さんがですか?」
「うん。間抜けだよね」
「ははは……」
それにしてもあれはただの猫じゃない。
捕まえようとしても全然捕まえられないのだ。おもちゃを持ち出しても夢中にはなりきらないし、猫なで声で呼んでもついてきてはくれない。
「おやつとか」
「試したんだけどさあ」
最初の数回はおやつで釣ろうとした。
けれどびっくりすることに、猫は鼻先に餌をちらつかせようが追いたくなるよう振ったりしようが全く興味を持たなかった。それどころか嫌そうに前足でぺいっとのけたりする。そんなもの僕が食べるわけないでしょ、とでも聞こえてきそうなくらいだ。
「お腹すいてないのかな」
「誰か餌でもやってるのかもしれませんね」
「だよねえ。やっぱ飼い猫かな……」
あきらは残念そうにため息を吐いて、外の景色を眺めた。まあ私たちみたいのは飼うべきじゃないんだよね、と諦めたようなことを言う。伊地知はちょっと困ったような顔をした。
「……飼えばいいと思いますよ」
「いつ死ぬかもわかんないのに?」
「そういうことを言うなら尚更です。大事なものがあれば、最後まで足掻く気になれるでしょう」
「……まあ、そうかも」
「なので」
今度は私も協力しますよ、と伊地知が言った。あきらは一瞬きょとんとして、ミラー越しに伊地知の顔を見る。
「……ありがと、伊地知」
「いえ、力になれるかはわかりませんが」
確かに、五条でさえ目隠しを取られるような猫を捕まえる助けに、伊地知がなるかは微妙なところだ。
あきらは笑って、まあもう少し頑張るかあと伸びをした。