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五条と手を繋ぐ

※学生時代
※時々目が見えなくなることとかないかなという話

 

先生を探して校内を歩いていると、同級生二人に出くわした。

「あ、あきらだ」
「…………」

手を繋いでいる。
夏油と五条、どちらも男だ。
手を繋いでいた。

妙に楽しげな雰囲気を感じ取り、あきらは一切迷うことなく、無言で踵を返した。

「待った待った」
「私何も見てないから安心して」
「何を誤解してるんだ」

五条を置いて走り寄ってきた夏油があきらの肩を掴んだ。関わりたくないよーとか前から怪しいとは思ってたんだとか往生際悪くその場に留まろうとするあきらを、夏油は無理矢理連れて行こうとする。
少し向こうには置いて行かれたっきりの五条が佇んでいて、あきらたちがいる方を見てケラケラ笑っていた。

「あきら?」
「ちがいます」
「違わないよ」
「ていうか見ればわかるでしょ」

五条はいつも見るのと同じくサングラスをかけていたが、なんとなく様子が変だった。目に光がない。視線は合っているはずなのに、どこか通じあわない。
何かあったのかと口を開きかけたところで、五条の横に戻った夏油が元通り手を取ったので、あきらは顔を顰めてまた逃げようとした。

「待てって。別に好きでやってるわけじゃない」
「えっ傑俺のこと好きじゃねーの」
「ややこしくなるから黙っててくれないか。あきら、待った」
「同級生の恋愛騒ぎに巻き込まれるのはまっぴらごめんなので」
「見えてないんだよ」
「へ?」

驚いて振り向いたあきらに、夏油が少し困った顔で笑いかけた。

「悟は今、何も見えてないんだ」

はい?とあきらは間抜けな顔をして、頭の上に疑問符をいくつも浮かべた。
五条悟の特殊性というと、性格その他たくさんあるが、まあ一番は目だろう。
詳しくは知らないが、見えすぎるのも困ったものだと話しているのを何度か聞いたことがある。目隠しをしたって夜の闇の中だって問題なく見たいものが見えるはずの目が、見えない、と今夏油は言った。
後ろでイエーイと暢気にピースをした五条は放置して、「どういうこと」とあきらが問いかける。

「そのまま。どうも時々あることらしい」
「そんな、大丈夫なの」
「大丈夫だって」

けろっとした顔で五条が横から答えた。

「まあ長くて一日ってとこ」
「一日って……」

特殊な目であるとか、成長期で不安定かつ膨大な呪力が関係しているのだとか言う。こういう事態に陥るのは初めてではないらしかった。なるほど飄々としている。

「こんな状態で実習は無理だろう。だから寮の方に連れて帰ろうと思ってね」

それで誘導のために手を繋いでいたのだと、夏油が苦笑した。
そしてそのまま自然な流れであきらの手を取り、はい、と五条の手を乗せる。ぐっと力を入れてしっかり握らせた。

「あきらが通り掛かってくれてよかったよ。実はこれから実習なんだ」
「は?」
「悟のこと、よろしく」
「いってら~」

呆気にとられて口をぽかんと開けたあきらに笑いかけ、夏油は手を振る親友に応えつつ、迅速にその場を去っていった。
取り残されたあきらの手を、五条が面白そうににぎにぎと確かめている。

「………………はあ」
「お、諦めた?」
「もういいよどうせ寮まででしょ」
「談話室がいい」
「なんでよ」
「部屋だと一人になっちゃうし~」

そういうの寂しいからぁ、とふざけたように言っているが、状況が状況なだけに切り捨てるのは躊躇う。結局ため息を吐くだけにとどめて、あきらはいつもよりゆっくりと歩き始めた。
目の見えない人間を導くなんて初めてなので、とりあえず段差や障害物に気を配る。

「ほんとに平気なんだけどな」

ぽつりと五条が言う。
あきらは顔だけ振り向いて、どこか遠くを眺めながら、微笑みを湛えている五条を見た。

「……そんなの本人にもわからないことでしょ」

傷ついていることや不安であることに鈍感な人間は結構いるし、五条はそういう類の人間なのではないかと、あきらは思ってもいる。

「そう?」
「そうだよ」
「へえ。…………あ、七海」

目が見えなくても気配くらいは察せるらしい。
見知った後輩の名を聞いて、五条の振り向いた先を見ると、こちらに気づいて即踵を返す七海の姿を見つけた。

「うわあああ待って待って七海!」
「何も見てませんので」
「事情が!事情があるから!」

気遣いとかいろいろを思わず忘れ、手をふりほどいて走り出したあきらの背中を、五条はやっぱりいつも通り、ケラケラ楽しそうに笑っていた。