「伏黒先輩!」
「…………」
「ジュース買って来ました!!」
今日も今日とてあきらは元気だ。いつだか不良に詰め寄られて泣きそうに怯えていたのが嘘のように、のびのびと伏黒のパシリのようなことを自主的に行っている。
その行為を見ていて不快になった自分のためにやったのだから、お前を助けたつもりはないと何度も話はした。したが、あきらは一層目を輝かせるだけで、伏黒にまとわりつくのをやめようとはしない。
せめてパシリの真似事はやめろと言ってみても、パシリじゃなくてこれは恩返しなんです死んだばあちゃんが恩はしっかり返せって言ってたんですと真っ直ぐな目で訴えるばかりだ。
要するに、あきらは善人だった。
しかも一度主人と定めた相手にはどこまでも尽くす義理堅い犬のような性質を持っており、ということはつまり、伏黒にとっては、苦手な部類の人間なのだ。
その忠犬の頭には、生き物とも化け物ともわからない何かが我が物顔で乗っかっていて、伏黒はつい眉間に皺を寄せた。
「えっ」
突然不機嫌になった伏黒を見て、あきらが戸惑ったような声を上げる。
「もしかしてジュースじゃなくて、牛乳の気分でしたか?」
「違う」
どうしてそうなる。
よく蠅頭だの呪霊だのを肩や頭にくっつけているくせに、あきらには全く自覚がない。
あきらの頭上でケタケタと出来損ないの生き物が笑い声のようなものを発した。それが気に障ったから、伏黒はひとつ舌打ちをして、呪力を纏わせた手を、あきらの頭の上で払う。
呆気なく形を失った蠅頭が霧散した。
「先輩……?」
これでいい、と思ったのも束の間、あきらのきょとんとした顔に気づく。
舌打ちをしたくなる。伏黒の行動は多分、何も知らない、見えないものからすれば脈絡のないものだったから、不思議に思われるのは当然だった。
何か言い訳をするか、このまま何もなかったように振る舞うか迷って黙ったままの伏黒の顔と、自分の頭上にある伏黒の手とをあきらは見比べた。そうして少し考えて、はっとした顔をする。
「えへへ」
照れくさそうに笑った。
「伏黒先輩に褒められるの、初めて」
と本当に嬉しそうに言って、あきらは撫でてというように、頭をちょっと傾けた。
つられるように下ろした手が、あきらの小さな頭にぽすんと乗っかる。成り行きとはいえ言い訳を得て、伏黒は柄でもなく後輩の頭を少しだけ撫でた。小さい頃よく姉にされていたように、ほんのちょっとだけ。
手を退けても、あきらはすぐには頭を上げなかった。
「今度は牛乳買ってきます」
「……だから違うって言ってるだろ」
「また、たまに褒めてくださいね」
「…………」
髪から少しだけ覗いたあきらの耳が赤い。伏黒は何を言っていいかわからなくなった。