頭を斬り飛ばされて、力を失った呪霊が掻き消える。
戦闘態勢を解いて一息吐き、それからやっと自分の格好を顧みて、あきらは困った顔で「どうしよ」と呟いた。
制服がボロボロだ。スカートは切り裂かれて太股の危ういところまで見えてしまっているし、途中で呪霊の視界を奪うために投げつけた上着はもうただの布切れになっている。
中に着ていたカッターシャツもボタンがいくつか引きちぎれて、インナーが見えていた。
端から見れば暴行を受けた後に見えるだろう。
集中していたので気づかなかったが、結構苦戦していたらしい。
あきらの戦い方は泥臭いよね、といつか担任に言われたことを思い出す。だってそういうの好きだしと一人呟いて、あきらはポリポリと頭をかいた。
「…………まあいっか」
どうせ今日は一人ではないのだ。送迎役として付いてきてくれた補助監督の伊地知が、廃ビルの近くで待っているはずだった。
車に乗ってしまえば、人目に触れることもない。高専に着いてしまえば、こういうことに慣れっこのみんなは騒いだりもしないだろう。ちょっと恥ずかしいけれど、それはもう仕方ない。
そう考えるともうどうでもよくなって、あきらはおわりおわりー、と言うなり出口に向かって歩き出した。口に出すとしっかり区切りがついた気になって、機嫌良く鼻歌まで歌う始末だった。
「伊地知さん、終わったよー」
人目を避けつつ、決めていた場所まで戻ってくると、見慣れた車の側に立って難しい顔で端末を見ている伊地知を見つけた。おそらくまた別の任務の資料を見ていたのだろう。
伊地知があきらの声に気づいて顔を上げる。ぎょっとした顔をした。
「高遠さん……!?」
「疲れちゃった。早くかえろー」
「その格好は……怪我は!?」
「ないです。制服駄目になっただけ」
ほっと息を吐くなり、伊地知が慌てて目を逸らす。あきらはきょとんとして、どうしたのと尋ねた。
「い、いえ。それより早く車に乗ってください」
「うん」
言われたとおり後部座席のドアに手を掛けたところで、「待ってください」と止められる。
あきらが手を止めて首を傾げると、伊地知は手早く上着を脱いで、あきらに差し出してきた。
「どうぞ」
「別にいいよ、大丈夫」
「大丈夫ではなくですね」
珍しく押しが強い。引く気がなさそうなので、あきらは大人しく上着を受け取って、ごそごそと着た。
「……大きい」
袖から手が出ないし、丈も長い。伊地知は大人だし、何より男性なので、そんなことは当たり前なのだが、何故だかあきらはびっくりしている。
「替えの服くらい用意しておくべきでしたね、すみません」
そんな風に謝りながら、伊地知は後部座席のドアを開けてくれた。
後ろの席に落ち着くと、あきらは遅れて運転席に着いた伊地知を見た。
「伊地知さん」
ハンドルを握った伊地知は振り向かない。鏡越しにあきらを見て、どうしました、と尋ねた。
「ありがとう」
あきらの素直なお礼の言葉を聞いて、伊地知が笑う。
「……どういたしまして」
困った担任に無茶振りされているときとも事務的に任務の説明をしてくれているときとも全く違う、優しい大人の顔だったから、あきらはやっぱりびっくりした。