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出張帰り七海

二週間程度の出張からやっと家に帰ってきたと思ったら、リビングであきらがくつろいでいた。ドアを開けて沈黙している七海に気づくと、「あ」と声を上げる。

「帰ってくるの今日だっけ」

そんなことを言うあたり、出張が終わる日を知って会いに来たというわけではなさそうだ。

「お帰りー」
「……何してるんですか」
「え?くつろいでる」

そんなことは見ればわかる。
七海の買ったソファーで、七海の気に入りのグラスに水か何かを入れて、小説か何かを読んでいる。それ自体は特に珍しいことではないけれど。

自分の家で休めばいいじゃないですか、と前に言ったときに、ここの方が居心地がいいからと返されたのを思い出した。あの時は悪い気はしなかったが、今日は少し面白くない。
七海の帰ってこない部屋で、ただただ好き勝手くつろいでもらうために渡した合い鍵ではないからだ。

出張で疲れていたのもあるし、任務でしばらくそれどころではなかったところに、何の心の準備もなくあきらの顔を見てしまったせいもある。

「…………」

荷物の入ったケースを壁際に置き、七海はあきらへと近づいた。
また小説を読み始めたあきらの肩に触れ、何と尋ねる彼女の頬に触れた。顔を近づけ、触れるだけのキスをして、無防備な耳の後ろを指でなぞった。

「あきらさん」
「…………いや、そんなつもりで来たわけじゃ」

なくてね、と最後まで言わせはせずに、今度は深く口づける。ん、と驚いたのは一瞬で、結局あきらは七海を受け入れた。
しばらく息を奪い合い、唇が離れると、あきらが涙の滲んだ目で怒ったように七海を見た。

「あのね」
「…………はい」
「ずるい」

ずるいのはあなたですよ、と思いながら、もう一度顔を近づける。もうすぐ折れてくれそうだ。