※学生時代
「ったく」
苛立たしげな声が聞こえる。
腹を押さえて倒れ込み、目を閉じていたあきらがうっすら瞼を持ち上げると、こちらを覗き込んで苛ついた顔をする五条が目に入った。
元気そうだ。
多分奥にいた今回の一番の目的を倒して戻って来たのだろうが、制服さえ汚れていない。
なんとか呪霊は祓ったものの、こうして死にかけているあきらとは大違いの姿だ。
「生きてるよな?」
「……ぃ、」
返そうと思ったが声が出なかった。自分でもびっくりするけれど、結構弱っているらしい。
五条はハアと溜息を吐き、あきらの片腕を掴む。よいしょと背中に担ぎ上げられた衝撃で傷が痛んで、ぐ、と呻いたら「我慢しろ」と怒られた。
重心を調整して、安定したのを確認してから歩き出す。
普段からあきらのことを弱い弱いと言ってからかう五条も、流石にこういう状態のあきらを見捨てていくほど冷血漢ではないのだろう。
そう思うと、戦闘でも汚れなかった制服が、少しずつ血に塗れていくのが少し申し訳なくなってくる。
本人に気にしている様子はないけれど。
「……俺はさ」
補助監督が待つ出口に向かって歩くうち、五条がぼそりと呟いた。
聞かせる気があるのかないのかわからない音量で、五条は続ける。あきらは揺られながらそれを聞いた。
「反転術式使えないんだよ」
「…………、」
少しびっくりした。
普段からなんでもできるとか最強だからとか豪語している五条が、言葉の通りできないことはないとばかりにあきらの上を飛び越えていく五条悟が、よりによってできないなんて言葉を口にしたのだ。
なんだか。
「…………ふふ、」
なんだかおかしい。
いいのか悪いのか、痛みというか感覚そのものがなくなってきていて、だからあきらは思った通り息だけで笑うことができた。
状況に似合わないかすかな笑いを耳聡く聞きつけて、五条が笑うなと怒ったように言う。
それも今のあきらには、照れ隠しか何かのように聞こえていた。
「…………」
「あきら」
だって途切れたら途切れたで、戸惑った声が続くのだ。
「……俺の背中で死ぬなよ」
死にそうなのか、安心して眠いのかあきらにはもう区別がつかない。瞼がどんどん下りてきて、抵抗する気力もない。
「死んだら殺すからな」
物騒な言葉を聞きながら、あきらはとうとう目を閉じる。
「あきら」
もしもう一度目が覚めたら、そしてその時、五条がそばにいたら。
今度こそはしっかり笑って、お礼の一つでも言ってやろうと、あきらは思った。