※学生時代
別行動時に呪霊と戦い負傷した七海のことを、五条は大いに笑った。
ヤベー弱っまあ入ったばっかだもんね、と追い討ちをかけたいのかフォローしたいのかよくわからないことを七海の肩を叩きながら言う。
文句の一つも言ってやりたいが、自分が苦戦していた呪霊を吹き飛ばして助けてくれたのは五条だったから、何も言えなかった。貝のように黙り込むしかない。
車の運転席に座る補助監督が気の毒そうな顔をしてこちらをちらちらと見てくるので、それもまた惨めではある。
高専に戻り、一応責任を感じているのか、それともまだからかいたいだけなのか、五条は医務室についていくと言い出した。
好きにしてくださいと諦めて、少しぎこちない動きで七海は歩き出す。すぐ治るよと知っていることを五条は後ろから言った。
「あ、今先生いないよ」
「………………」
医務室に入るなりそこには見知らぬ人が立っていて、七海は沈黙を返した。運が悪い。
見たことがないが学生なのだろう。制服の色や形は違うが、高専の生徒が皆つけているうずまきのボタンを彼女もやはりつけている。
女生徒はふとこちらに顔を向けて、七海の現状を悟ると、痛ましいと言わんばかりに眉尻を下げた。
そこへ廊下で虫を見つけたとかで気を取られて遅れていた五条が追いつき、七海の肩の上からひょこっと顔を出す。
「何突っ立ってんのさ」
「あれ、悟」
「……………………」
女生徒が目を丸くして五条に目を向けている。名前を呼ばれた方はといえば、同じくサングラスの横から覗く青い目をまん丸にして、口をぽかんと開けていた。
「あきら!」
「あきら?」
耳のすぐそばで叫ばれた単語を七海はつい繰り返した。するとすぐに怪我の箇所に近い脇腹を目立たないよう小突かれて、何かと睨めば耳元で「オマエは呼ぶな」と簡潔に言う。聞かれたくないらしく声は小さい。
女性は少し苦笑して、高遠あきらっていうの、と七海に向けて名乗った。
「なんで!?まだ海外でしょ」
「予定ではね。ちょっと早めに片付いたからそのまま帰ってきちゃった」
「聞いてない!」
「言ってないから」
問い詰める五条の相手を、あきらと名乗った彼女は楽しそうにしていた。
お土産買ってきたよと傍の椅子においていた紙袋を見やり、それからやっと怪我人のことを思い出して元の気の毒そうな顔になる。
「最近入った子なんだね。おいで、私も少し反転術式使えるから、治してあげる」
「……はあ」
また五条が後ろから小突いてきた。あきらにはどうやっても見えない位置取りをしている。
傷は痛むので治してもらえるならその方がいい。五条のことは一旦気にせず、七海はあきらに歩み寄り、紙袋を退けられた椅子に座った。
あきらは向かいに座ると、呪力を練りながら、笑顔で話しかけてくる。
「一年なら私の三つ下かな。名前は?」
「七海建人です」
「七海くんね。これからよろしく」
わかんないことがあったら何でも聞いてねと穏やかな声がかかる。
渋々着いてきて後ろに立っていたらしい五条が、「俺がいるから大丈夫だよ」と意味のわからないことを言ったので、七海は思わずそっちを見た。
五条は平然となあ七海と笑った。
「へえ、ちゃんと先輩してるんだねえ」
「は?」
「だってもう二年だし。今日もしっかり実習付き添ってきたよ。怪我させちゃったけど」
「それで心配してついてきたのね。えらいえらい」
「……?」
帳が降りるなり七海を置いて駆け出していった人間が何を言っているのだと訝しげな顔をしていると、またあきらには見えない位置を今度はぎゅっとつねられた。
余計なことは言うなということらしい。
「悟がいい先輩しててよかった。嬉しいなあ」
「まあ俺だからね!!」
七海の傷を治しながらにこにこと笑うあきらに向かって、五条は思い切り胸を張った。何の話をしているのか、やはり全く理解ができない。
眉間に皺を寄せた七海を見て、あきらはまだ痛むのと見当外れの心配をしていた。