※学生時代
ほとんどただ一人のための道具に成り果てている携帯電話が微かに震えたのを聞いて、あきらは読書を中断し、億劫そうにそれを片手に取った。
メールだ。表示されている名前はやはり今は東京の学校に通う自分の主で、今度は何かと溜息をつく。
無理を通して入学した高専はなかなか楽しいらしく、最近は連絡も減っているが、その分たまの連絡が長いのだ。
「……へえ」
携帯を開いたあきらが、わずかに目を大きくする。
『彼女ができました』
と、短い文章が画面に表示されていた。
添付された画像では、サングラスをかけて遊んでいる高専の制服を着た女子と、その肩を抱いてピースをしている主がこちらを向いて笑っている。
恋人同士の雰囲気があるかはさておき、仲がいいことは見て取れる。付き合いたてならこんなものかもしれない。
「…………」
あきらは少し考えて、ぎこちない手つきで携帯のキーを打った。
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『あのさあ!!』
「はあ、なんですか、悟様」
適当にメールの返事をして、読書を再開していたところにまた携帯が震えた。今度は一度で止まず、しばらく無視をしてみたが収まる様子もないので、あきらは再び携帯を手にする。それで出たらこれだ。
いきなり不機嫌な声を浴びせられてもあきらは平然としていた。慣れている。
『何アレ!?』
「何、とは」
『メール!』
はあ、と相槌を打ち、あきらは自分が返した短い文面を思い出した。「おめでとうございます、と返しましたが」何か不都合が?と伝わらないながらも首を傾げる。
「今度是非連れていらしてくださいね。ご挨拶がしたいので」
『……ご挨拶って何』
「『悟様をよろしくお願いします』。あと……そうですね、少しわがままではありますが悪い方ではありませんとフォローのひとつでも」
つくづくできる世話係だなとあきらは自分自身に感心した。
困ったことがあれば相談に乗りますとか、悟様を引き取ってくださってありがとうございます末永くよろしくお願いいたしますとか、そのほか言いたいことは湯水のように沸いてくる。一度こちらから東京に会いに行って、握手でもしたい気持ちだ。
『……もういい』
「はい?」
『あきらのバカ!アホ!』
何故かずっと怒っている主は小さな子供の頃から変わらない語彙であきらを罵ると、そのままピッと通話を切ってしまった。
「……ハァ」
腹が立たないこともないが、こんな癇癪は所詮日常の範囲内だ。
深く気にすることはせず、本の続きを読み始めてしばらく経った頃、携帯がまた震えた。メールが来ている。
『彼女じゃなくて同級生。あと今度の休みはそっち帰るから』
「…………」
あきらは少し落胆しつつ、また慣れない手つきでお待ちしておりますとだけ返した。
今度帰ってきたときには、こういう嘘は虚しいだけですよと教えてあげよう。あきらはそう心に決めて、今度こそと読書を再開した。