※学生時代
「くっそぉ……」
呪具置き場となっている小部屋の隅で、恨めしげに棚の上の方を睨みあげ、あきらは唸った。
手が届かない。
誰があんな高いところにあきらの呪具を置いたのだ。
しばらく使っていなかったとはいえそこに置いた覚えはないから、きっと整理のつもりで、誰かがそこに置いたのだろう。余計なことをしてくれる。
きょろきょろ辺りを見回しても、台になりそうなものはない。棚の造りは結構がっしりしているからあきらがよじ登っても耐えてはくれそうだが、万が一こちらに倒れてきたら目も当てられないので選択肢には入れられない。
「……なんか取ってくるか」
諦めてくるりと振り返ろうとしたときに、「あきらさん?」という呼び掛けを聞いた。
「灰原。どうしたの」
丸い目をパチパチと瞬かせ、灰原と呼ばれた後輩が眩しいくらいにはっきり笑う。
「五条さんが」と続いたのであきらは眉を顰めた。
「なかなか戻ってこないから、急かして来いって」
要するにパシられたらしい。
組手の約束をしていたから、そのせいだろう。
そう待たせたわけでもないのに、相変わらず人の遅刻には厳しい男だ。自分は割とルーズなのだが。
「……ちょっと待って、今台を…………あ。」
「え?」
「灰原、ちょうどいいところに」
あきらがにっこりと笑った。え、とまた首を傾げた後輩の肩を叩いて、あきらが棚の上を指差す。あれ取れなくてさぁと言うと、納得した灰原がああ!と頷いた。
そして。
「よいしょ」
あきらの脇の下あたりをがしっと掴み、ひょいと持ち上げる。そのまま棚の方に近づいて、どうぞ!と元気に言った。
「………………灰原、灰原」
「はい!」
今のあきらには見えないが、きっといつものような曇りのない笑顔を灰原は浮かべているのだろう。子どものように抱き上げられながら、あきらは頭痛を覚えた。
もう何もかも面倒になって、「やっぱいいや」と思考を放棄する。そうですか?と不思議そうな灰原を放って、いきなり距離が近くなった自分の獲物を手に取る。
「もういいよ。ありがと」
「いえ、お役に立ててよかったです!」
「…………」
いい後輩なのだ。本当に。
無事床に降り立ったあきらは、つい灰原の頭に手を伸ばし、形のいい頭をよしよしと撫でた。