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同期四人で閉じ込められる(過去)

※学生時代
※BLをネタにしています
※恋愛感情が1ミリも出てきません

 

 

「やだ。絶対嫌。私と硝子に近づかないで」

硬い声でそう言うと、あきらはぱちぱちと瞬きをしている硝子の前に出て、前に並ぶ同級生二人──五条と夏油から庇うように立った。そのまま簡易領域を展開して目の前の二人をキッと睨みつけている。
本気だ。
シン・陰流の使い手である高遠あきらの簡易領域は、五条の術式にさえある程度有効である。もしあきらの領域に一歩でも踏み入れば、即座に手に持った武器が敵を打ち据えるだろう。
というかそもそも男二人にそこまでする気はない。そうやって決着をつけていいような、単純な話ではないのだ。
 

──話は少し前に遡る。
高専二年の四人は、気がついたらこの、やたらとでかいベッドとソファーと本棚と、小さい冷蔵庫しかない白い部屋の中にいた。
どうしてそんなことになったのか覚えているものは誰もいない。直前まで何をしていたのかという記憶さえない。
簡単に考えつくのは、呪霊、呪詛師──要は何者かに呪術的な攻撃を受けている、ということだ。
ならばやりようはある、ということで、四人は二手に分かれた。
一組目、五条と夏油が部屋自体に攻撃を加えて、脱出を図る。
二組目、硝子とあきらが部屋の中に何があるのかを確認する。
本棚やら冷蔵庫やらを調べる女子二人をよそに、破壊の音が派手に部屋に響きわたる。
しかし特級二人の力を以てしてもこの部屋からは逃げられなかった。
かわりに、度重なった衝撃のせいか──

「……なんだコレ?」

天井からひらひらと、一枚の紙が落ちてきた。
 

「別に俺だってオマエ等とやりたいわけじゃねーよ。でもじゃあどうすんだよコレ」

さっきあきらが受け取ってすぐ投げ捨てた紙を五条が拾い、ほら、と示してくる。見ないようにしても何が書いてあるかは目に入ってきた。

「セックスしないと出られない部屋?」
「硝子!」

後ろに庇われた硝子が紙に書いてある文字を読み上げて首を傾げる。全く動じていない硝子を見て、夏油が苦笑した。

「そんな馬鹿な部屋あるわけないでしょ!」
「実際出れねーだろ、俺と傑が何やっても無理なんだぞ。それに──」

青い目を眇めて五条が室内を見渡した。一頻り何かを確認するようにしてから、またあきらに目を戻す。

「呪力も何も見えねーんだよ、この部屋」
「……」

あきらは眉間に皺を寄せると、五条から目を逸らした。
別に五条が嘘を言っているなんて、あきらも思ってはいない。この部屋が妙なことは十分理解している。
だがそれでも、そうだとしても。

「……絶対無理」

ちょっと諦め気味の男子二人と、何を思っているのかよくわからない硝子とは異なり、あきらは頑なだった。
これで実はこの中のうち二人が恋愛関係にあるとか、もしくは片思い中とかそんな素敵なことがあったならよかったのだろうが、生憎高専二年はそれぞれにそれぞれをないなーと思っており、その印象は天地がひっくり返っても覆ることはない。妙な部屋に入れられたとしても同じだ。

「そうだ」

必死の形相のあきらが手を打った。明らかにろくなことを思いついていない顔だったので、五条が顔をしかめた。

「五条と夏油二人でやりなよ。私と硝子は部屋の隅で静かにしてるから。さっき耳栓見つけたし、誰にも言わない。約束する」
「ふっざけんなよ、なんで俺と傑がやんだよ。男同士でやれるわけねぇだろ」
「さっきそこの本棚に参考になりそうな本があった」
「オマエな……」

あきらの勝手な言い分に、五条が青筋を立てて口の端をひきつらせた。そのうち喧嘩になるな、と夏油が溜息を吐いた時、

「じゃんけんしよう」
「え?」
「は?」

硝子が暢気な声で言った。

「負けたやつ二人でやればいいじゃん。恨みっこなしの一回勝負」
「……それでいいのかい?」
「私はいいよ」

けろりとしている。まるでおみやげの残り一個を取り合う時のような普通の顔だった。
結局あきらと五条も折れ、夏油も特に異存はなかったので、硝子の仕切りで運命と貞操をかけたじゃんけんは行われた。
 

そして結果は、というと。
 

「嘘だろ……」
「…………」

この世の終わりがきたような表情の男二人をよそに、「仕方ないね」「決まったことだしね」と女子二人が気軽に言い合っている。

「はいこれ」

あきらが本棚からもってきたよくわからない本を差しだした。硝子は冷蔵庫にあったらしいわかるけどわかりたくはない何かの液体が入ったボトルを持ってくる。
無慈悲にもほどがある。二つを受け取った五条は口を開けて呆然としている。

「…………待った」

堪えきれずに手を翳した夏油に、じゃんけんでいいって言ったじゃんと非難の声が上がった。

「いや、そのことじゃなくて」
「じゃあ何?」
「要は出られたらいいんだろう」

言いながら術式を発動する。奥の手中の奥の手、手持ちの呪霊の中で一番の攻撃力を持った呪霊を呼び出して、もう一度やってみていいかい、と青い顔をした夏油は言った。