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夏油様にお願い

「夏油様、お願いがあるの」

大きな目でこちらを見つめながら、あきらは言った。

腕の中には血で濡れた体を横たえて動かない、猫と思しき物の死骸があり、着ている制服も手もところどころ真っ赤に汚れている。

愛おしい家族のお願いだ、断る理由はどこにもない。
いいよと優しげに微笑むと、あきらはひとつ頷いた。目を伏せ、埋める場所がほしい、と小さな声がこぼれる。

「……おいで」

目を細めて歩き出す夏油の後ろに、あきらは無言で続いた。

葉をすっかり落とした木の根本に、あきらは穴を掘った。そばに横たえていた死骸をもう一度優しく抱き上げて、そうっと穴の中に入れてやる。
もうとっくに壊れきってしまったものなのに、これ以上損なうまいとしてか、あきらの手つきは丁寧なものだった。

「夏油様、お経とか唱えて」
「うーん、残念だが、」

そういったものは知らないよ、と答えると、あきらは袈裟なんて着てるくせにと夏油を見て、不満げに唇を尖らせた。
拳ほどの石を目印にしたそこに向かって手を合わせる。不甲斐ない育て親に期待することはやめ、ただ祈ることにしたようだ。

「タマ、シロ、あるいはポチ」
「ポチ?」
「おやすみなさい」

夏油の些細な疑問は無視して、あきらはポン、と石を叩いた。撫でるように数回手を滑らせる。

「……かわいがっていたんだね」
「まあまあね」
「飼えばよかったのに」
「自由にしてるのを見るのが好きだったから」

だから仕方がないのとあきらは言って立ち上がった。
くるりと背を向けて、行こうと夏油の右腕を取る。触れたところに血や土が付き、ぐいぐい引っ張られて、思わず苦笑がこみ上げる。

適当なところも、情を移しやすいところも、言葉の端々も。
年も性別も全く違うというのに、あきらといると、どこかの誰かを思い出す。

「春になったら桜が綺麗だよ」

夏油は言った。あきらはすこし考えて、じゃあみんなで花見だねえと元気に笑った。