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夜蛾学長の面談

※犬神憑き

重厚な扉が開くと、そこは結構広い空間になっていて、奥に一人壮年の男性がいた。
一段高くなっている板の間のようなところに、座布団を置いて座り、ちくちくとフェルトの固まりにニードルを刺している。
後ろにはなんとなくかわいいぬいぐるみがたくさん並んでいる。夜蛾学長だよと五条があきらに耳打ちをした。

「珍しく時間通りだな」
「ま、たまにはね」
「その子が例の子か」
「ええ」

トン、と五条があきらの背中を叩いた。反動で一歩前に出たあきらは、あのうと少し迷ってから頭を下げる。

「高遠あきらといいます」
「君は何をしに来た?」
「え?」
「ここは呪術高専、呪いを学ぶ場だ。呪いを学び呪いを祓い、一体何を目指す?」

あきらは不安げに後ろを見た。五条の口元は笑うばかりで、助言などはありそうにない。助けを諦めて、あきらは考える。
そばにいつの間にか現れていた犬神が、きゃん、と楽しそうに鳴いた。

「あ、えっと、私は犬神憑きらしくて」
「今までは困ったこともなかったんだろう?」
「はい。でもそれはたまたまだって、五条先生が教えてくれたんです」

あきらはとっても恵まれていた。父親も母親も周りの友達も、時々犬神たちのせいで挙動がおかしくなるあきらのことを、特に気味悪がったりはしなかった。同じものを見ることこそなかったが、またこの子は、と苦笑するくらいで、態度を変えることもない。心底嫌な目にあったことも、辛いと思ったこともなかった。

『君は幸せだね』

いつかの忠告に従って逃げようとしたあきらに、五条はそう言って笑いかけた。

持ち主の心のままに動くはずの犬神たちが、暢気に昼寝するしかないくらいに、あきらは周りの人たちに恵まれていると。

『でも、この先どうなるかはわからない。人生は長いから、いつか嫌な目にあって、人を憎むこともあるかもしれない』

そうなったら。

「……もし辛いことがあっても、もし人を憎むことがあっても、誰かを傷つけたりはしたくないので、ここに来ました」
「…………呪術師をしていれば、呪術師同士戦わないといけないこともある」
「そ、そうなんですか」
「…………」

あきらは少し考え込んで、もう一度学長を見る。

「戦うにしろ、傷つけるにしろ、自分で決めたことをできるようになりたいです。偶然に頼るんじゃなくて、自分の意志で」

「…………そうか」

合格だ、と短く続けた学長に、あきらはほっとしたように笑う。途端に足下にいた犬神が駆けだして、学長の方へと突進していった。足にぶつかったふわふわした生き物を見て、学長が少し戸惑ったようにあきらを見た。

「す、すみません……」
「……構わない」

悟、寮を案内してやれと夜蛾学長は言った。はいはいと楽しげに答えた五条はあきらを外に出るよう促した。学長のところではしゃぐ犬神は置いたままだ。
いいのかな、と頻りに後ろを気にするあきらに、学長ああいうカワイイやつ好きだから大丈夫だよと五条はケラケラ笑って言った。