反転術式で人を治すのが自分の特技だとあきらは思っていたけれど、乙骨の本気を見てから口に出すのはやめた。今まで通り真希が擦り傷を作ってきたら治してあげるし、棘が喉を痛めたら治療もする。パンダの体が破れたら裁縫道具だって持つが、どうせその程度なのだ。
「あきらさんはすごいねえ」
へにゃりと小さな子供のように笑った乙骨は、傷のすっかり癒えた腕を動かして調子を確かめた。
よく言う。つーんとしつつあきらは「どうも」と返した。
「憂太の方がすごかったけどね」
「え」
数ヶ月前の呪詛師の襲撃時のことを言われていると察した乙骨が、なにやら慌てた。あれは里香ちゃんのおかげで、なんてしどろもどろに言う。だがあきらはもう知っている。あの里香という強大な呪いでさえ、目の前の男が作り出したものであることを。
「憂太はさ、自分でもできることをすごいって言うの、やめた方がいいと思うの」
機嫌の悪いあきらが言ってやると、乙骨は気まずそうに視線をさまよわせた。高専に入ってまもなくの頃の、気の弱そうな少年の顔を久し振りに見た。
「……本当にすごいと思ってるんだよ。真希さんも棘くんも、パンダくんもあきらさんも、みんな」
「本当なのは知ってるよ」
それが本音だとわかっているからこそ腹が立つときが、時にはあったりするのだ。乙骨が困った顔で笑う。あきらはふんとそっぽを向いた。