※学生時代
8時、俺の部屋、あきらには言うな。
この三つのキーワードしか書かれていないメールを受け取ったのは、どうやら家入だけではなかったらしい。五条の部屋の前で出くわした苦笑気味の夏油と一緒に、ノックもしないで中に入ると、学生寮の一室にしては広い部屋で、うろうろと落ち着きなく歩き回る部屋の主人がいた。
五条はずっとうろうろしている。
ベッドの上でくつろぐ家入がその辺に置いてあったスナック菓子を食べ始めれば、夏油が「ベッドの上ではやめときな」と口うるさいことを言った。母親か。
「んなことどーでもいいんだよ!」
一体何のスイッチが入ったのか、五条が何故かキレ気味で怒鳴る。家入は素知らぬ顔で、「あきらとなんかあったの」といきなり核心を突いた。
何を隠そう五条とあきらは、周りを巻き込みまくりの紆余曲折を経て、この間ようやく付き合いだしたのだ。呼び出しのメールからして、それがらみに違いないということは、家入も夏油も最初から見当がついている。
「…………何もねぇよ」
だがしかし眉根を寄せた五条は、予想と異なることを言った。
「へえ、よかったじゃん」
「よくねーし!!」
またキレた。何なのこいつと指さしながら保護者代わりの親友を見ると、やはり苦笑を返される。「じゃあどうしたんだい」、と今度は夏油が聞いた。
「……ホントに何もないんだよ」
「…………何もって?」
「だから!」
怒っているのか焦っているのかわからない五条が言いたいのは、付き合って一月以上も経つのに何も進展がないということらしかった。
うろうろと部屋の中を歩き回る五条が眉間に皺を寄せたまま、ぶつぶつ呟いている。
「普通どんなんなんだよ。どれくらい経ったら手繋いでよくて、どれくらいでキスしてよくて、どれくらい、で…………」
とそこで急に押し黙ってしまった五条の後を、家入が引き継いだ。
「セックスしていいのかって?」
じろり、と大きな目で、五条がこちらを睨みつける。
「…………オマエ女のくせにそういうこと言うな」
「ただの単語じゃん」
「それでもだよ」
夏油は笑顔で窘めてきた。なんで自分がこんなクズたちに責められなくてはいけないのか。世の中はまったく、おかしなことばかりだ。