※幼少五条
五条なんて大層な家に、運悪く大層な力を持って生まれてきたせいで、悟は時々大人たちに連れ出される。力があるなら働け、将来の家のために実戦で力を磨け、ということだ。
思い通りになると思うとあんまり面白くないが、術式を大っぴらに使うこと自体は嫌いではなかったから、引率の人間がよっぽど気に入らないとかではない限り、悟は大人しく従うことにしている。
高遠あきらは、結構お気に入りの付き人だった。
「……悟様、目を瞑ってください」
手を引いているのとは逆のてのひらで、あきらが悟の視界を覆った。大人の手は大きくて温かい。
隠した理由は多分、その辺に転がっている人間の死体だろう。悟が呼ばれるような現場には大抵それがあって、別に怖いと言った覚えもないが、あきらは何故だかそれを見せるのを嫌っていた。
「別にいいのに」
「駄目です」
短くぴしゃりと返しながら、あきらは悟の手を引く。気を遣っているのだろう、さっきまでより歩みが遅い。
「…………」
あきらのしていることは、実を言うと意味がない。
てのひらひとつで視覚の全てを奪えるような凡庸な瞳なら、そもそも悟はここにいなかっただろう。少し向こうに散らばった人の死体も、ぴちゃっと音を立てた足元にあるのが水ではなくてもっと粘性のあるものだということも、悟はよく知っている。
けれどあきらには言わない。
普通の子供相手ならおそらく当然だろう気遣いが、視界を覆う手の温かさが、心地良くて好きだった。
「まだぁ?」
「まだです」
足元に転がる内臓らしきものをさりげなく避けながら、悟は今日も嘘をつく。握られた手にぎゅっと力を込めると、応えるように、あきらが握り返してきた。