後ろの車の様子がおかしい。目的地に向かって走る車の助手席に座りながら、あきらはミラーを見上げた。さっきから距離をすぐ後ろまで詰めたり、車のライトをつけたりと、なんだか忙しない感じだ。心なしか、小さく見えている運転手がこちらを睨んでいるような気もする。
「伊地知さん」
「はい?」
どうかしましたか、と運転席に座る伊地知に尋ねられ、あきらは小首を傾げながら口を開いた。
「なんか、後ろの車、変じゃない?」
「ああ」
伊地知が軽く頷いた。視線をちらりと逸らして、何事もなかったように正面を見る。「煽られているだけですよ」と事も無げに言った。
なるほどこれが噂に聞く煽り運転か。へーと感心したような声を出して、あきらはしっかりとミラーを見た。後ろの車がまた距離を詰めてきている。やめる様子がない。
「……どうにかしましょうか?」
「……一応聞きますが、どうやってですか?」
「術式とか」
「やめてくださいね」
はあとため息を吐かれた。よかれと思って言ったのだが。
にしても伊地知は慣れているのか、随分平気そうだ。あきらは少し不思議に思って、「怖くないんですね」とそのまま呟いた。
「へ?」
「後ろの人、結構怖そうな顔ですけど」
いつもの、例えばあきらの担任の五条に何か言われて震え上がっている伊地知の反応やらを思い出すと、今平気そうにしているのはちょっと不思議だ。
あきらの言いたいことを理解したのか、伊地知は困ったように笑った。
「もっと怖いものを知ってますからね」
「……ふーん」
あきらが思っていたよりも、肝が据わっているらしい。
「まあ、何かあったら守ってあげますね」
あきらが生意気なことを言うと、伊地知はやはり困ったように、危険なことはやめてくださいと返してきた。