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夜蛾と生徒

煙草を吸った。酒を飲んだ。
夜遊びもパチンコも、あきらの年齢ではやってはいけないと決まっていることを、とにかく片っ端からやってみたのは一年の秋だった。
そのうちのひとつはめでたく定着し、今日もこうして、教室の窓から遠くの木々を眺めながら、紫煙を吐き出したりしている。

 

「──あきら」

後ろから声がした。首だけで億劫そうに振り返った先には、今はもうあきらの担任ではない教師がいる。
「やっほー」と片手を上げて適当な挨拶をすれば、聞こえよがしの息の音がした。

「何度も言っているが」
「うわ、説教」
「……何度も言っているが、せめて教室で吸うのはやめろ。一年が真似をする」
「はは」

軽く笑って首を元に戻す。外を見ながら、「硝子は元々吸ってたよ」と言い訳じみたことをあきらは言った。

「悟はすっごい咳込んでたからもう吸わないんじゃない?傑は結構です、って言ってた」
「勧めるな」
「いいじゃん、別に」

ふう、とまた煙を吐き出して、それが空に溶けていく様を見る。

「私たち、いつ死ぬかわかんないんだし」
「…………」

高専の生徒に命の保証はない。そんなことは、あきらよりも長い時間をここで過ごしている夜蛾の方がわかっている。
けれど軽々しく言うな、とは言うつもりはなかった。あきらにもそれを実感するだけの経験があるからだ。

「夜蛾せんせー」

こちらを振り返らないままの生徒の呼びかけに何だ、と夜蛾が答えると、あきらが小さく笑った。

「私ねえ、」
 

──今日も、誰も助けられなかったよ。
 

まるで世間話でもしているような、軽い口調であきらは言う。
うーん、と煙草をくわえながら伸びをした。

「ダメだね、ホント」

──煙草を吸って。
酒を飲んで、夜遊びもして、パチンコやあきらの年齢ではとにかくやってはいけないとどこかの偉い誰かに決められていることを片っ端からやり始めたのは、同期が死んだ秋だった。

悪い子になりたかった。

誰がいなくなっても、誰が死んでも、心を動かされないような、自分のことさえ大切にしないような人間に。

「……オマエが悪いわけじゃない」

ただひとつ、習慣として残ってしまった煙草の火を消しながら、あはは、とあきらは笑った。