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野薔薇と一般人

最近できた友達の名前は、釘崎野薔薇と言った。綺麗な名前に相応しい、綺麗な子だ。外見ばかりでなくて、まっすぐ前を見据えて歩くその姿を、あきらはすごくいいなぁと思う。あんまり見ない雰囲気の、ちょっと変わった子だった。

「ねえ〜」
「何よ」
「野薔薇〜」
「だから何よ」

お互い私服でたまに原宿で待ち合わせして、ブラブラ歩いたり喫茶店でだべったりするのがいつもの過ごし方だ。あきらはだらしなく机の上にべたっと倒れ込むと、下から見上げるようにして、野薔薇に笑いかけた。

「ハロウィン、遊ぼ!」
「ハァ?」
「都会っぽいことしたいって言ってたじゃん!今度のハロウィン渋谷行って仮装して遊ぼうよ〜」

田舎が嫌だ、せっかく東京に来たのだから楽しいところにいって楽しいことがしたいと常々ぼやいている野薔薇だから、これは乗ってくるとあきらは自信満々だった。なのだが。

「絶対嫌」

予想外に断られ、あきらはがくっと肩を落とした。なんでえと食い下がっても、野薔薇は頑なだ。

「いくら都会らしいって言っても、楽しみ方くらい選ぶわよ」

呆れたようにため息まで吐かれ、そうかあとあきらは引き続きしゅんとした。

「それに私寮だし。行きたいならあんた一人で行きなさい」
「野薔薇がひどい〜」
「ひどくないっつーの」

 

と、そんな会話をしたのがしばらく前だ。

当日は迎えたものの、結局あきらもそんなに渋谷のハロウィンが好きなわけでもないし、ていうか野薔薇とだから行きたいと思っていたのだし、普通に一人きりの家でごろごろしている。
漫画を読んでスマホを見てとかしていたときにいきなり、スマホが震えた。

画面には野薔薇とある。あきらは急いで指を滑らせた。

「もしもし!」
『あきら』

少し声を潜めている友人があきらを呼んだ。その声に緊張感を読みとって、あきらは首を傾げる。

「どうしたの?あっもしかして遊ぶ気になった!?」

言葉と同時に部屋の時計を見た。少し遅いかも知れないが、まあまだまだ遊べるだろう。途端にうきうきとしだしたあきらに向かい、野薔薇が違うわよ、とやはり呆れた声を出す。

「ええ〜?」
『あんた、渋谷には来てないのね』
「え?うん、まあ行ってないけど」

なんでわかるのだろう。行こうか?タクシーならすぐだけど、と聞いてみれば、野薔薇が即座に駄目よと言った。

『絶対来んな。あんたは家で寝てなさい』
「ええ?来んなって、野薔薇もしかして渋谷いるの?」
『…………』
「いるんだ!?一人で!ずるいやっぱ私も」
『駄目だって言ってんでしょ』

来たら絶交だからねときつい口調で野薔薇が言う。仲良くしたいあきらにとっては、それは何よりも強いカードだった。うぐ、と言葉を詰まらせる。

「……野薔薇」
『……何よ』
「また今度、遊んでね」

なぜだか少しの沈黙が流れる。

『——ええ。また遊びましょ、絶対に』

誓いのような決意のような、不思議なほどに強い声で、野薔薇は言った。