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世話係の縁談

縁談の話が出た。

もうそろそろあきらもいい年ではあるし、手間のかかる坊ちゃんは高専に進学してあきらの手から離れたのだし、相手の家柄も立場も申し分なく、人柄までいいとくれば断る理由がなかった。
なんにしろあきらに元々選択肢などないのだ。お受け致します、と頭を下げた相手は尊大に頷いて、ではそのようにと今後の段取りについて話し始めた。

そして明日はいよいよ結納の日。

のはずだったのだが。

「……悟様」

明日の準備でもしておくか、と自室で息を吐いた時である。バァンと古い障子を音が出るほどの勢いで開け放ち、東京で学んでいるはずのあきらの主、高専の制服姿の五条悟が部屋の前に立っていた。
目を丸くしているあきらをキッと睨み付けて、「どういうことだよ」と問い掛けてくる。

「どう、と言われましても。何がです」

何やら母屋の方が騒がしい。もしかして挨拶もせずにこちらに走ってきたのだろうか。呆れた顔で答えると、かあっと頭に血を上らせた主が「結婚ってどういうことだって聞いてんだよ!」と怒鳴った。

「ああ。メールでお知らせした通りですが」
「ハア!?」

この度結婚して五条の家を出ることになりました。今までお世話になりました、坊ちゃんのことは忘れません(忘れられませんとも言う)。もちろんカッコ書きの中はなくした文面を、あきらはそういえばと思って昨夜悟に送った。
返事がなかったから見ていないと思っていたのだが、どうやらちゃんと見ていたらしい。にしてもこの騒ぎはなんだろう。

「……いつから付き合ってんの」
「はい?」

今度はあきらが妙な声を上げた。
ついこの間まであれだけ自由奔放に振る舞っては後始末に奔走させておいて、何故そんな暇があったと思うのか。あきらはついこの間、お見合いでお会いしましたと事実を告げた。形の良い眉を吊り上げて、悟がまたそんなん聞いてねえと怒鳴った。

「報告の必要がありますか」
「…………」
「家柄も立場も申し分ない方です。きっと五条の家のためにもなると当主様にお墨付きもいただいています」
「…………家のため?」

あきらは頷く。

「ええ。私は五条の人間ですから」
「…………」

じっとりと半目になって、主人が不機嫌にあきらを睨む。今更この程度で怯むような心は持ち合わせていない。
何を思ったかそのまま畳の上に腰を下ろし、悟があきらから目を逸らす。そしてしばらく何か考え込んでいたかと思うと、いきなり、

「ウチのためになるならいいんだよな」
「はい?」

と一言。

あきらが何を言い出すのかとぱちぱち瞬きをしている間に、力強く頷いて勝手に納得すると、勢いよく立ち上がった。

「じゃあ縁談はなし。ジジイには俺が言っとく」
「え、いや、悟様……」
「あのさあ」

言葉を切って、いつの間にかまた背が伸びた主があきらを見下ろした。久しぶりにまじまじと見た悟の顔は、すっかり大人のようになっていて、少し感慨深くなる。

「俺の傍にいる以上に、五条のためになることなんてある?」

言い残して背を向ける。ドタドタと行儀悪く足音を立て、去っていく後ろ姿をあきらは額を押さえて見送った。