※小1野薔薇ちゃんと姉
あきらの妹は生意気だ。
あきらのものはなんでも欲しがるし、一度言い出したらてこでも動かないし、まだ小学校に上がったばかりだというのに、あきらと違って呪力だかなんだかを持っているせいか力が強く、喧嘩をすると少し油断すれば負けそうになる。口が達者で、乱暴者で、自分勝手。相手にしていると苦労が耐えない。
皿洗いの最中、そんな妹が帰ってきた気配がしたので、あきらは手を止めないまま「野薔薇、おかえり」と声をかけた。
「おやつあるから手洗ってから食べなね」
いつも通り茶の間に置いてあるおやつのことを教えてやると、掠れた声が「いらない」と答える。
「は?おばあちゃんが作ってくれたんだから、わがまま言わないでちゃんと食べなよ」
「いらない!」
野薔薇が怒鳴った。
眉を顰めて振り返ると、そこには下を向いて拳を握り、肩を振るわせる野薔薇がいる。
皿洗いを中断し、あきらは野薔薇の正面に立った。小さな妹を見下ろして、「野薔薇」と諭すように名前を呼ぶ。
「あんこきらい。ケーキとか、マカロンとか、そういうのがいい」
「……そんなもの、町まで行かないと買えないよ」
「じゃあ作って」
「無理」
ぴしゃりとしかりつけるような調子で言うと、「沙織ちゃんは作ってくれたもん!」と野薔薇が大きな声を出した。下を向いた顔からぽつぽつと水滴が落ちていく。
さすがにぎょっとして、野薔薇、とさっきよりは優しい声をかけたのと、野薔薇が踵を返したのは同時だった。
「おねーちゃんなんか嫌い!」
言うだけ言って走り去る。ドタドタと階段を駆け上がる後ろ姿を、追いかける気にもなれず、あきらは視線を落として、床に落ちた水の粒を眺めた。
「……泣きたいのはこっちだっつの」
無理して作ってやったって、どうせ、どこかの誰かと比べるくせに。