※学生時代
後ろからたったっと走ってきたあきらが、五条の制服の端を掴んだかと思うと、
「五条先輩、好きです」
開口一番そう言った。
振り返ってなんだよと言いかけていた五条はもちろん、並んで歩いていた夏油と家入も含め、その場の時間が一瞬止まる。
よく見ると突然現れて人前で好きだと告白している後輩は、照れるどころかちょっとどやっというような顔をしている。それに気づいた家入は本日の日付を思い出して納得し、夏油の方は苦笑を浮かべた。
問題は五条悟、好きだと言われた張本人である。
「お、オマエ、何言って……」
五条はサングラスの奥の青い目をこれでもかと見開いて、口をぱくぱくと動かしている。
いきなり告白してきたあきらを見、そしてハッとしたように自分の様子をうかがっている同期達を振り返り、それからまたあきらの方に向き直った。
「オマエな!なんでこんなとこで言うんだよ!!」
「え?」
狼狽する五条を見て、そこで初めてあきらは驚いた顔をした。訝しげに眉を寄せ、少し首を傾ける。
本日は言わずと知れたエイプリルフール、嘘をついても許される日というやつだ。
あきらにしてみればバレて当然の、性格の悪い、いつもの仕返しも込めたかわいい嘘だったから、何故そんなに五条が慌てているのかわけがわからなかったのだ。
「は?」
「んん?」
しばし頬を少し赤くした五条と、なんだこの人という顔をしたあきらが、どちらも相手の思いを理解できないまま頭の上に疑問符を浮かべる。
「悟、」
そんな状況を変えたのは、外野としてあきら達を見守っていた二人であった。
「……何」
一応反応した五条に、笑いを堪えた風の夏油が続ける。
「今日、エイプリルフールだよ」
「…………はぁ?」
「嘘吐いてもいい日ってやつ」
「………………」
家入が補足した。友人二人のおかげで、やっと状況を正しく理解した五条の顔が途端にひきつる。目の前の後輩をギロリと睨みつけた。
「……あきら」
地を這うような低い声で後輩を呼ぶ。
その怒りのこもった声を聞いて、今度はあきらが状況を理解した。げっという顔をして、先に続きそうな言葉を待たず、「すみませんでした!!」と叫んで走り出す。
「待てコラ!!」
よく考えればわかる嘘に引っ掛かったのも、それについ喜んだのも、照れたのも嘘だと分かって若干ショックを受けたのも、プライドの高い五条としてはなにもかもが耐え難いものだったと見える。失態をごまかすように声を張り上げていた。
「そんなに怒んなくてもよくないですか!?今日エイプリルフールなのに!!」
「うるせー!!!」
必死に走るあきら、その後を追いかけていく五条。惜しみなく呪力による強化をして走る二人の後ろ姿が、みるみるうちに小さくなっていく。
そしてこの場には、夏油と家入が取り残された。
「……今回は悟に同情しておこうかな」
「顔笑ってるよ、夏油」
「硝子もだろ」
「まあね」
どこか遠くから、建物が盛大に崩れるような轟音が響いてくる。
ある意味で平和な、春の一日のことだった。