地方への出張から戻ってきたあきらがお土産を持って医務室を訪ねると、今日は暇しているらしい硝子がコーヒーを煎れてくれた。温泉みやげをお茶菓子に近況報告などしていたところにドアが開き、「硝子さーん、薬くださーい」とあきらも知っている生徒の声がする。
一年の釘崎野薔薇だ。
明るいオレンジ色の髪のその子はあきらを認めて、「あ、こんちは」と挨拶をくれた。実習に付き添ったのは一度だけなのに、ちゃんと覚えていてくれたらしい。
手招きをするとあきら達のいるソファーまで素直にやっってきて、あきらの横に座る。硝子からコーヒーを受け取る。お土産のお菓子を手に取る、ととんとん拍子に雑談の体制が整う。
最近出かけた任務の話だとか、担任教師への真っ当な文句など、釘崎の話を聞きながら、学生はなんだかきらきらしてていいなあと年寄りじみたことをあきらが思っていると。
「今の学生は色恋沙汰ないの?」
と硝子がいきなり爆弾を落とした。ぶはっと自分が聞かれたわけでもないのに驚いたあきらを置いて、釘崎が平然と「ないですね」と答える。ごまかすようにコーヒーを飲んで、「そ、そっか」となんとか相槌を打つと、今度は釘崎が「硝子さんたちの時はあったんですか?」と尋ねた。
「あった」
「……」
なんだか汗をかいてきた。硝子がこっちに視線を向けているのがわかる。もちろん鈍くない釘崎も、その『あった』のが誰のことなのか察したようで、「ええっ」と顔を輝かせていた。あきらは二人のうちのどちらとも目を合わせないように、窓の方に視線を逸らした。
「わりと面白かったよ。ねえ?」
「……面白がってたのは外野だけでしょ……」
からかうような硝子の口調に、あきらは恨めしそうに答える。硝子と夏油、面白がっていたのはこの二人だけだ。あきらたちはそれどころではなかった。
「まー五条とかウザそうですもんねぇ」
「……」
知らぬは学生ばかりなり。もしその五条もからかわれる側だったと知ったら、果たして釘崎はどんな反応をするのだろうか。