※学生時代
夏油傑をこちら側に繋ぎ止められるものはもうなんにもないのだと、二人で出張に来た村で、夏油と対峙した智は思った。
夏油は強い。自分がこうして立ち塞がったところで一体何人逃げられるだろう。もしかしたら一人も助からないかもしれない。
もう逃げた方がいいんじゃないか。多分今すぐ背を向けて走れば、夏油は見逃してくれるだろう。確信はあるのに、どうしてかそれを選べず、智は夏油の正面に立つ。
「智」
「……」
「どいてくれないか」
「うるせぇよ」
なんでだよ、という疑問は言葉にならない。
呪術は弱者のためにあるってお前が言ってたんだろうが。五条と喧嘩までしてたのに。お前ら親友なんだろう、二人で最強なんだろう、俺なんかとは違うすげぇやつのはずなのに。なんで五条のいないとこで、こんなことになってんだ。
ぐるぐると思考を巡らせているうちに妙に感情のない顔をした夏油が呪霊をけしかけてくる。智はそれを斬り伏せる。実力の差は明確だ。質でも量でも勝てるはずはなく、そのうち地面に倒れた。
「……夏油、お前」
「……」
見下ろしてくる夏油がどんな顔をしているのかわからない。
最後の力を振り絞って、喉からなんとか声を出す。
「……お前さ、一生、後悔しろよ」
夏油の顔は逆光で見えない。もうなんにも、見えなかった。