禪院直哉が女になった。
どこぞの呪霊の仕業らしい。車に乗って仕事から帰ってきた直哉は降りるなり術式をフル活用し、誰にも姿を見られないままに自室へと引きこもった。みっともない姿を人に見られたくなかったようだ。庭の木や敷石が彼女(笑)の音速の犠牲となり一部粉々になってしまったが、それでもこの事態の面白さを思うと文句を言う気にはならなかった。
あの禪院直哉が!女に!
女の腹から生まれて女に育てられ女がいなければ子孫も残せないくせに、女という生き物を心底馬鹿にしているあの禪院直哉がである。
「直哉さん、そろそろ出てきてはいかがですか」
禪院直哉が自室から出てこなくなって五日目、部屋の前に立って、あきらは優しい声で語りかける。
炳のトップたる人間がたかが女体化ごときで引きこもらないでほしい。下のものに示しがつかないし、トイレに行く度術式を使うせいで周りのものを破壊されているのも迷惑この上ない。
もちろんその辺のことはおくびにも出さず、あきらはとんとんと軽く障子を叩いた。この向こうにいることも、あきらの声が聞こえていることもわかっている。
「なったものは仕方がないんですから、楽しんでしまえばいいじゃないですか。ある意味男の夢でしょうこんなの」
「アホかお前ボケ死ね」
「あらかわいいお声になりましたね。服貸しますから気分転換に出かけましょうよ」
「ふざけんな!」
「まあまあ、時間が経てば戻るかもしれないし。最悪戻らなくても、女には使い道がありますよ。そうでしょう?」
いつも直哉さんが仰ってることでしょうに、と甘い声がころころ笑う。
「……あきら、覚えとけよ」
地を這うようなトーンの脅し文句も、こんなに高い声では怖くも何ともない。それに後で仕返しをされたところで、そう簡単にやられるほどあきらは弱くもなかった。あきらが直哉に劣っているものといえば、禪院家においてはその性別のみである。
「ええ、勿論」
来るなら来いという気持ちを込めて、機嫌良く答えれば、相当腹が立ったらしい。部屋の中で何かを壊す音がしたので、もしかして生理ですかと追い打ちをかけておいた。