息の奪われ方なんて知らない。流し込まれる唾液の、上手い飲み込み方なんて知らなかった。緑川はそんな私を見て、自分の唇をぺろりと舐めながら満足げに笑う。
「あきらさんはさあ、」
嫌な予感がした。緑川がこう切り出すときは、後に必ず私を馬鹿にする言葉が続くのだ。
例えば初めて会ったとき──その後に続いたのはA級のわりに弱いねという言葉だった。あまりの言いぐさに絶句した私を見かねて、あの時は風間がA級隊員に重要なのは個人としての強さだけではなく、チームの一員としての強さであるとフォローしてくれたのだったか。
またある時は、遠くで談笑している嵐山隊の木虎と見比べて、大人なのに胸ちっさいねと言われた。あの時も私は言葉をなくして立ち尽くしていたのだが、風間は側におらず、代わりに近くのソファーにだらりと座っていた太刀川に、違いないとエクスクラメーションマークまで付けて爆笑された。
本当に、ろくなことがない。
「ほんと、年のわりにキス下手だよね」
やっぱりだ。緑川は愉快そうである。濡れた口元を拭い、息を整えながら、緑川のまだ幼さの残る顔を見た。今回にしたって今までだって、緑川の言うことは紛れもない事実で、そこがなにより悔しい。
「胸もやっぱり小さいし。うちのクラスの女子の方がもうちょっとあるんじゃない」
いつかと同じことを、また言われてしまった。
「……ふん。なら」
さすがに腹が立ったので顔を逸らすと、横顔に視線を感じる。拗ねた顔を見られるのも、相手が年下だと思うと恥ずかしくて、頬に熱が集まった。
「なら?」
「……誰かに頼んで、練習してくる。ついでに胸も」
ぼそぼそ言うと、緑川がはーとわざとらしく息を吐いた。ちらりと目線を遣ると、呆れたような半目が私を見ている。
「別に駄目だって言ってないじゃん。そういうことじゃないって。あきらさんてばわかってないなあ」
「じゃあなんだっての」
緑川が手を伸ばして、私の髪を一房掬った。また顔を寄せてくる。ゆっくりとそれに合わせて向き直れば、ランク戦で勝ったときのような、楽しそうな笑みを浮かべた。鼻歌まで聞こえてきそうな顔だった。
「あきらさんが下手なの、優越感だし、うれしい。男心ってやつかな」
「……男って」
まだ中学生のくせに。と言い掛けて、その中学生に翻弄されている現状を思い出して内心で頭を抱える。
黙り込んだ言葉の先を察したのか、あきらさんってちょっとバカだよねえと、緑川がにやにやしていた。これでもお前より学校の成績はよかったよと返したら、的外れだと笑われてしまうのだろうか。