Skip to content

佐鳥ハピバ

誕生日である。佐鳥が生まれた日、一つ年を重ねる日だ。
別に16歳から17歳になっても何が解禁されるでもなく、たった一日隔てたところで目に見えた成長はない。けれど会う人会う人におめでとうと祝われるのが素直に嬉しくて、普段からしまりがないと評価される顔が一層緩む。
嵐山隊の面々が連名でくれた大きな包みも嬉しいし、出水と米屋がにやにやと渡してきた茶色の平べったい大きな封筒もそれなりに嬉しかった。その辺のコンビニで手に入るようなお菓子も、あめ玉一個でさえ祝いの言葉とともにもらうと特別なものになるのだ。

誕生日だからといってボーダーの隊員としての佐鳥の仕事が免除されるわけではなかった。昼からの隊での任務を普段通り終え、いつもより自分をちやほやしてくれている(ような気がする)隊のみんなとラウンジで休憩をしていた。
まだまだ元気だしこの後少し訓練場で頑張っていこうかな、と思いながら、嵐山のおごりのジュースを飲んでいた時である。

「さーとり」
「うわあっ!?」

後ろからいきなり手を回されて、ぎゅうと抱きしめられた。耳元で自分を呼ぶ聞き慣れた声がする。
正面に座っていた嵐山が「高遠」と少し驚いた顔を見せ、時枝と木虎が小さく会釈をした。綾辻はにこにこと微笑んでいる。
佐鳥が首を回して振り向くと、あきらの顔がとても近くにあって心臓が跳ねた。甘い香りを吸い込んでくらくらする。
慌てている佐鳥を見て、あきらがにっこり笑った。

「佐鳥、誕生日おめでとう」

散々いわれた言葉なのに、やたらと嬉しくなるのはなんでだろう。相手が問題なのか、それとも状況のせいか、もしかしたら両方かもしれない。あわあわと顔を赤くして佐鳥が口を開く。

「ふわっ、はい、ありがとうございます!」
「プレゼント欲しい?」
「欲しいです!!」
「よしよし」

勢いのある返事に気をよくして、あきらがごそごそと何かを取り出した。はい、と眼前に持ってこられたのは、手のひらに収まるサイズの白い封筒で、佐鳥がなんだろうかと首を傾げる。
「開けてみ」とあきらがくすくす笑う。素直に従って、封もされていないそれを開け、中身を取り出した。それは小さな、白いカードだった。

なんでも券、と、その五文字が、あきらの字で書かれてある。

「……」
「嬉しい?」
「……あきらさん、これって」
「なんでも券」
「それは見たらわかります! いくら佐鳥でも!」
「なんでも言うこと聞いたげるよ」
「……!!」

声にならない叫びが佐鳥から発せられたような気がした。なーんでも、と実におもしろそうに、あきらが佐鳥の耳元で繰り返す。

「……ル、ルールは」
「ないない」
「期限とか」
「ないって。だからゆっくり考えてね」

あきらの返答を聞き、佐鳥が大きく息を吐いた。それで落ち着いたのかといったら答えはノーで、耳まで茹で蛸のように赤い。

「ちょ、ちょっと、訓練に行ってきます」

言いながら立ち上がれば緩い拘束も解けて、あきらがおー、がんばれ、とのんきに声をかけた。よろよろと佐鳥が移動を開始する。途中で人とぶつかったりしている背中をあきらがにやにやと眺め、それもじきに見えなくなる。

「高遠」

そこでやっと、蚊帳の外に追いやられていた嵐山が口を開いた。すっかり二人の世界みたいになっていたが、ここにいたのはあきらと佐鳥だけではないのである。
信じられないとでも言いたげな表情で見つめてくる木虎と目があって、あきらがくっくっと喉を鳴らした。

「そういえばみんないたんだった」
「わざとらしいです、高遠先輩」
「そうかなあ」
「そうだ。あと……」
「ん?」
「お前、忘れていたんだろ?」

嵐山がそう言うと、あきらはちょっと驚いた、というような顔をして──にやあ、とまた笑った。立ち上がって回り込み、佐鳥が今まで腰掛けていた席に座る。「バレたかー」言葉とは裏腹に、愉快そうな口振りだった。

あきらが佐鳥の誕生日を思い出したのは、実を言うと昨日の夜中のことだ。
月が変わるからと思って、自宅のカレンダーをめくったら一日のところに赤い丸がついていたのである。プレゼントを買いに行く暇もないし、どうしようかなーと考えた末の思いつきがなんでも券だった。

「いやー、喜んでくれてよかったよかった」
「賢はお前がくれるものならなんだって喜ぶさ」
「あはは」
「それより、軽々しくなんでもなんて言って大丈夫なのか?」

なんでも言うことを聞く、なんて恋人に言われて、佐鳥がどういうことを頼むのかなんて、あえて考えなくても大体想像はつく。それでなくとも年頃なのだ。今頃訓練場では、佐鳥が使い道についてぐるぐると考えを巡らせながらイーグレットを構えていることだろう。

「その辺は大丈夫だよー」

あきらがくすくす笑っている。佐鳥が忘れていったジュースのコップを手に取り、こくりと一口飲んだ。

「もともとあんなものなくても、佐鳥のしてほしいことはぜーんぶ、してあげるつもりでいるから」

とどのつまり、バカップルののろけである。この場の全員がうわあと思ったのは、言うまでもない……が、まあ、幸せならそれでいいけど、と流してもらえるくらいには、佐鳥は大事にされていたし、二人は祝福されているのであった。