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そばにいたい佐鳥

体の調子が悪いことに気づいたのは、トリガーを解除した時だった。途端にふらつく足下に戸惑い、どうしようか廊下で考えていた時に、ばったり沢村さんに会い、顔色が悪いと言って心配したのち医務室まで付き添ってくれたのである。
人のいない医務室のベッドに横たわった私に、沢村さんはポカリスエットを買ってきてくれて、脇のテーブルに置いた。なにか他に欲しい物はないかと聞かれたが、口にものをいれるのは危険な気がして丁重にお断りした。

いつどこにゲートが出現するのかわからないので、ボーダー本部は人を代えつつ、基本的に24時間常に稼働している。宿泊施設もあるし、本部で暮らしている人間もいる。
タクシーを警戒区域の近くに呼ぶことは安全上難しいし、本部から歩いて二十分のアパートに帰るのは今の体調ではつらい。何より一人暮らしの人間にとってはこういう呼べば誰か来てくれる場所があるのは心強かった。

どうやら熱まで出てきたみたいだ。だるさと、妙な安心感に包まれて、私は目を閉じる。

 

「……」

──つめたい、と思った。
目を開けたつもりが視界は暗く、どうもなにか目の上に乗っているらしい。重い腕をゆっくりと持ち上げると、「起きた」と小さな声がした。

「……さとり?」

目の上に乗っていたタオルをずらしたら、しまりのない笑顔が見える。

「はいはい」
「なんでいるの」
「沢村さんから聞いて。あきらさん、おかゆとか食べられますか?薬もらったんですけど」
「今はまだ無理……」

言いながら右腕に付けっぱなしだった腕時計を見た。六時。二時間は寝ていたようである。
けれどまだまだ眠いのだ。体を起こし、ご飯食べてないからダメですよ、と制止する佐鳥を無視して、薬とポカリを手に取る。
薬と水分と睡眠があれば、風邪なんてあっという間に治るものだろう。寝転がって目を閉じたら、「あきらさん」と佐鳥が私を呼んだ。

「……タオルありがと。遅くなんないうちに帰りなさいよ。明日も学校でしょ」
「…………まだ、もうちょっといていいですか」

どっちが病気だよってくらい頼りない声だった。
万が一移って任務に支障が出たらどうするんだ。嵐山隊の面々に申し訳が立たない。

「ダメ」

短く答えても佐鳥が動く気配はなかった。

もともと眠かったのである。
すぐに眠気はやってきて、まどろみの中で催促するように「さとり」と唱える。

「はい。ちゃんといますよ」

だから違うって、という言葉は音にはならなかったかもしれない。
ダメだと思っているけれど、なんだかんだ私だって、本心では心細いのだ。
深い眠りに落ちるのは、心地よい反面怖い。
 

「ずっといます。あきらさんが起きるまで、いますよー」
 

弱った体はバカみたいに正直だ。ぎゅっと握られた手を、気がついたら、少しだけ力を込めて、握り返していた。