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酔っ払い諏訪

玄関からカチャカチャと鍵を開ける音がして、あきらはすうっと瞼を開けた。こんな時間に誰だろう、と改めて考えなくても、答えは二択である。変質者か、合い鍵を持っている恋人か。
万が一前者であったときのために、あきらは枕元に置いてあるトリガーホルダーを握って、布団の中で息を潜めた。

ドアが開いたと思ったら聞き慣れた声が聞こえて、肩に入った力を抜く。諏訪だ。
「あきらー」とろれつのいまいち回っていない言い方で名前を呼ばれ、ため息を吐いた。そのうちにもガタゴト家具やらなにやらにぶつかりながら、諏訪はゆっくりとあきらのいるベッドに迫る。

「……電気つければ」
「お、おきてた」
「起きたの、あんたのせいで」

わりーなあとちっとも思っていなさそうなことを諏訪は言った。闇の中をもぞもぞと動く影を見る。上着をその辺に放ってから、掛け布団を無遠慮にめくって、諏訪はベッドに入ってきた。

「ちょっ……酒臭い」
「飲んできたから」
「誰と、どんだけ……わっ」

ぎゅうと抱きしめられて喉から変な声が出た。酒のせいかいつもよりさらに体温が高い。

「東さんと。どんだけのんだかは覚えてねー」

相当飲んだという事だけはわかった。要するに楽しく飲んでいて、解散がちょっと寂しくて、一人の家ではなくあきらのところに来たのだろう。はた迷惑だと思う反面、少し嬉しくもあるのが腹立たしい。
「あきら」もう一度名前を呼ばれた。胸に押しつけられた顔を動かして、自分を抱き込む諏訪の顔を見る。
何、という言葉ごと諏訪が唇を食んだ。顔を離そうとしても諏訪の大きな手のひらが頭をぐっと抑えているし、抗議の声を上げようと思っても開けた口には舌をねじ込まれるだけだ。指が首の後ろをなぞればぞくぞくと震えが走る。むせかえるような酒の匂いとタバコの匂いが、口内に広がって鼻に抜けていった。

「……やばい」

一通り蹂躙したのち、諏訪が口を離して言った。嘆いているような声色が不思議で、息を整えながら「何が」と尋ねれば、

「たたねえ」

愕然として言う。あきらは呆れて半目になった。

「…………飲み過ぎだね」
「あークソ、やりたいのに」
「私はやりたくないのでありがたいです。もー寝るよ」
「いやまて……お前がなんかすればたつかも」
「しません」

もそもそと体の向きを変え、諏訪に背を向ければ後ろから抱きつかれる。「これからずっとこのままだったらどうしよう」などと弱音を吐くので「知りません」と突き放した。
そこからはなあなあと呼びかける声も、機嫌を取ろうと呼ばれる名前も、全部無反応で返してやる。体を揺すぶられても寝たふりだ。

「……やばい。捨てられる……」

そう呟いたのを最後に無言になったので、振り向いて様子を伺うと、諏訪は目を瞑ってぐうぐう寝息を立てていた。気持ちよさそうに口を開けて眠っている。

ちょっと考えたあと、あきらは腕の中でもう一度向きを変えて、さっきのように胸に顔を寄せた。大きな体は熱くて、そしてやっぱりタバコの匂いがする。

「……はー。もう」

自分のものだと主張するように、腕を回してぎゅっと抱きしめる。心臓の音を耳元で聞きながら、捨てるわけないでしょ、と小さく呟いて、あきらも続いて眠りに落ちた。