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加古隊には入らない

「あきら」

名前を呼ばれた。

学校終わりの隊員が増え始めたラウンジでも、加古の声は静かに響く。さほど大きくもないのに目立つのが不思議なくらいだった。

読んでいた本から顔を上げれば、少し向こうで加古がにこりと笑っていた。傍らにはこの間正隊員になった新人が立っていて、あきらと目を合わせるとぷいっと顔を背けてしまう。どうもあきらはあの少女にあまり好かれていないらしい。
少しかがんだ加古が何か耳打ちをすると、彼女は元気に頷いて、ぺこりと頭を下げるとどこかへ走っていく。
それを見送ってから、加古はゆっくりとした足取りであきらのところへやってきた。

「……懐かれてんじゃん」
「そうね」
「黒江だっけ。11秒の」

うろ覚えの名前を口に出せば、向かいの席に腰を下ろした加古が頷く。「かわいいわよ」と見たらわかることを言う。
「そりゃあんだけ懐かれてりゃかわいいでしょうよ」あきらが呆れながら返した。

黒江の加古を見る瞳は、わかりやすく憧れと尊敬でいっぱいだ。彼女は確かにそれに値する人間なのだろう。
目の前でゆったりと足を組み、長い髪を手で梳く姿はまるで一枚の絵画のよう。その上A級隊の隊長として活躍し、好成績を上げている実力者でもある。能力といい容姿といい、加古は明らかに周りより秀でた人間だった。
自分がもし黒江と同じ年で、後輩として加古に巡り会っていたのならば、自分だってあんな目で彼女を見ていたかもしれない、とあきらは思う。
実際のあきらは加古と同じ年で、素直に憧れられるほど自分のことを諦められなくて──嫉妬とか呆れとか、いろいろ複雑な感情を抱いているのだが。

「あきらもうちに入ればいいのに」
「またか」
「空きはあるわ。いつまでもB級でフラフラしていても仕方がないでしょう?」

お試しでもいいわよ、と笑う。あきらはからかうような目で加古を見た。

「お試しっていいながら抜けさせてくれなさそうだよね」
「そうねえ。保証はしないわ」
「……前から思ってたんだけど、あんたんとこの隊章、蛇でもよかったんじゃない?」
「それじゃ三輪隊と被るでしょう」
「じゃあ女狐」
「あきら、その言い方だとただの悪口よ?」

加古があきらを自隊に誘うのは、今日が初めてではない。しかし幾度となくあったそのすべてに、あきらは首を横に振り続けている。

そんなやりとりも──今日で最後だ。

「望」

あきらがにっと笑った。加古が不思議そうに首を傾げる。

「……私だってね、いつまでも考えなしじゃないんだから」
「へえ?」
「見てなさい。そのうち私──いや、私たちが」

あきらが言葉とともに、ぴっと人差し指を突きつけた。

「──あんたたちの前に立つ」

加古が珍しく驚いたという顔をした。目をぱちぱちと瞬かせて、それからにっこりと余裕ありげに笑ってみせる。

「……そう。それは、楽しみね」

誘いを断り続けたのは、加古が嫌いだったからではない。むしろあきらは友人として彼女に好意を持っている。部下として従いたい相手ではなかったというだけのことだ。
あきらはただ、加古と対等でいたかった。強く美しい友人の隣に、背伸びでもなんでもして、胸を張って立っていたかったのだ。

隊章はどんなのにしようかなあ、とあきらが機嫌よく言った。気が早いわよと加古がもっともなことを言う。
騒がしいラウンジの片隅で、二人は顔を見合わせて、しばらくくすくす笑い合っていた。