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子供とはいえ/佐鳥

小さな女の子に、大きくなったらおよめさんにしてね、と言われるのは、男として相当誇らしいことなんじゃないかと佐鳥は思っている。
だから佐鳥はにこーっといつもの人なつっこい笑みを浮かべて、大きくなったらね、と頷き、ねだられるままに指切りげんまんまでした。飛び跳ねて喜んだ女の子が大きく手を振って佐鳥の座るベンチから離れていく。
手を振り返しながら、かわいいしほどよく大胆だし、きっと彼女は将来すてきな女の子になるに違いないと佐鳥は思って。
なんだか嬉しくなった。
この先同年代の男の子にでも本当の恋をして、こんな約束が笑い話になるまでが様式美である。ほのぼのとした気持ちで、そんなことを考えていた。

──のだが。

「へんはい」
「うーん?」
「ろーしてさとりはほっへをひっはられているのれひょうか」

公園のベンチに座った佐鳥の真ん前に立って、微妙に不機嫌な顔をしたあきらが、その両頬をつまみ、引っ張っている。激しく怒っている、というわけではない。けれどいつもみたいに、じゃれている、からかっているというわけでもなさそうだから、機嫌が悪い、程度の形容がふさわしいと思う。
佐鳥が不明瞭な発音でケーキ屋さんいかないんですか、と問う。もともとそういう口実で、二人の家のちょうど中間くらいに位置しているこの公園を待ち合わせ場所にしていたのである。
「行く」あきらが答えた。

「じゃあ」
「佐鳥」
「はひ」
「わっかんないかなあ?」
「らにを」

ちっともわからない佐鳥の頬を、あきらが更に引っ張った。さすがにちょっと痛い。眉間に軽く皺を寄せたあきらが、はあ、と大きなため息をついてから手をぱっと話す。佐鳥の顔がようやくもとに戻る。両手で少し熱を持った自分の頬をさすって、そうっとあきらを見上げると、あきらはくるりと背を向けて、「行くよ」とだけ言った。
そのまま歩き出したのであわてて後を追いかけ、横に並ぶ。

「ね、ねえあきらさん」
「うん」
「なんで怒ってんの?オレなんかしました?」
「怒ってないし。もーいい」
「で、でも気になる」
「気にするな」

無理ですよぉと語尾を伸ばした佐鳥の顔を、あきらはじっとりと見て、それからそっぽを向いた。

「……さすが嵐山隊の佐鳥隊員は、小さいお子さんにも大人気で」

針千本飲んじゃえ、となげやりにあきらは言い、急に歩くスピードを上げた。
佐鳥は意味がわかったようなわからないような──いや、わかったけどほんとにそんなことで?せんぱいが?ていうかきいてたの?
小走りになって距離を詰める。追いついたとき、自分でも子どもっぽいと、自覚があるらしいあきらの頬はうっすら赤く色づいていた。