「ひょっとすると俺は、お前のことが好きなのかもしれない」
私がジュースを飲んでいるのを、やたら熱心に眺めていたと思ったら、太刀川は唐突にそんなことを言った。
「……そのわりには容赦なくない? 普通好きなやつの首、平然と飛ばす?」
さっきまでしていた10本勝負は、当然のように私の負けだった。
太刀川と戦うようになってから数年が経っていて、私も日々強くなっているはずなのに、未だこいつから4本以上取れた試しがない。
太刀川はいつも、楽しくてたまらないという顔をしながら私に止めを刺す。
痛覚がないとはいえ、感覚はしっかりとあるので、太刀川に切り落とされた腕や足、首に生々しい感触が今も残っている。刃が、肉を裂くときの。
「それとこれとはまた別だろ」
「……なんで好きかもなんてことになったわけ」
「それはあれだ。お前とやりあってると、楽しいから」
「別じゃないじゃん?」
大体楽しいっていうなら、迅や風間さん、忍田さんとか、私よりもっと強い、太刀川といい勝負ができる人間がボーダーにはいる。楽しめる相手が好きなら、何も私じゃなくていい。
「そうなんだよなあ。だからいまいち確信がない」
あっさり認めると、太刀川はやっと私から目を逸らした。体の力が少し抜ける。
それきりしばらく黙り込んでいたので、もう話は終わったのだと思ったのだが。ジュースがもうじきなくなるというところで、太刀川がまた口を開いた。
「いいことを思いついたぞ。あきら、一度試してみよう」
「……イヤな予感がするけど一応聞くわ。どうやって」
「セックス」
「しね」
短く答えて、ちょうど空になった紙コップを握りつぶした。「なんでだよ」と太刀川が不満そうに言う。
「なんであんたのお試しのために私がそんなことしないといけないんだ。しね」
「別に減るもんじゃないだろ。一度くらい」
「減る。やだ」
「俺うまいし、損はさせないぞ」
「うまかろうがやだ。好きでも好かれてもない男が初めてとか最悪すぎる」
「え、お前、処女なの?」
太刀川が目を丸くする。うっかり言ってしまったがまあ別に構わない。
私の年で経験がないのはなにも恥じるようなことじゃないし、おかしいのはむしろ同い年なのに歴戦の雰囲気を持つ太刀川の方である。
「そうか、処女かー」
どこか楽しそうに繰り返す太刀川を見て眉間に皺が寄った。だからと言ってお前にあげるためのものではないのに、一体何が嬉しいのか。