Skip to content

妥協せよ影浦

がおーという、身振り手振りまでつけた威嚇を影浦はした。
やっている人間を思うといっそただのギャグであるが、影浦の人となりを知らず、暴力沙汰の噂や現場しか見たことのないC級にとっては充分脅える対象らしい。ざわっと顔を青くして散るもの、多数。
あきらははあとため息をついて、「やめなよ」と言った。

「うるせー。ジロジロ見てくる奴らが悪い」

感情受信体質、という厄介なものを持っている影浦に同情しないわけではない。なにしろ自分になにか思っている人間が周りにいるだけで肌を刺されるような感覚がするみたいだし、向けられた感情が嫌なものだと不快感があるのだそうだ。
じゃあいい感情なら快感なのか聞いてみたいところだが、実際尋ねたことはなかった。万が一そうだと素直に答えられでもしたら、年頃の女としては少し反応に困る。

「……手当たり次第喧嘩売るから、余計怖がられたりするんでしょうが」

なるべく見られたくない、恐れられたくないなら最初から好印象を抱かれるような人間を演じておけばいいのだ。例えば嵐山のような。……無理か。無理だな。
どちらにしてももう、ボーダー内で影浦の評価は覆すのが不可能なほどに出来上がっているので、今更言ったところで無駄である。ならもう諦めるしかない。

「いい加減割り切ったら?」
「むかつくもんはむかつくんだよ」
「わからんでもないけどさ。頭の中で何考えてようがその人の自由だし、ほんとは誰に知られるはずもないことなんだから」

それを責めるのはかわいそうだよ。と周りの肩を持ってみた。影浦は何も言わなかったが、眉間に皺を寄せて不満を表していた。もう一つ、自然とため息が出る。

「……あんただって、知られちゃまずいこと考えることはあるでしょ」
「………………」
「ムラッとしたときとかさあ」
「……あァ?」

なんだかものすごい剣幕で睨まれて喧嘩からのランク戦にまで発展した。
だがしかしなにか思うところがあったらしい影浦は、これ以降一度は我慢するようにしたらしい。ほんとに一度だけなので、あまり変わりはなかったが。