「唯我ー!!!」
なごやかにおやつタイムを過ごしていた太刀川隊作戦室に、あきらが大声をあげながら乗り込んできた。出水の向かいに座っていた唯我が、飛び上がって「はいい!」と大きく返事をする。
自隊の隊服を着たあきらは少し切れているらしい殺伐とした目つきといい、腰に差している弧月といい臨戦態勢だった。今すぐに抜刀しても不思議ではない。口を挟む暇もなくあきらがずかずかと歩いてきて、唯我の首根っこをひっつかんだ。戦闘体の腕力で、唯我の尻が少し浮いた。
「暇か!?暇だな!よーしランク戦行くぞ!!!」
「高遠先輩、ま、まだおやつが残って」
「おやつぅ?」
あきらは唯我に顔を寄せて睨みつけた。ちらっと机の上に乗った皿と、食べかけの焼き菓子を見つける。
「んなもんこうだ!」
空いている手でそれをひょいっとつかみ、自分の口の中へ。あ、と口を開けて呆けた唯我のことは気にも留めず、切れ気味のまま引きずってドアの方へと向かっていった。
嵐のような人だ。
結局出水や、国近に一言もかけることもなく去っていった。国近は相変わらずだねえと笑っている。
「お、マフィン。俺にも一つくれ」
隊長であり、そしておそらくあきらの怒りの原因であろう太刀川が作戦室にやってきたのは、あきらたちが去ってから程なくのことである。陽気に菓子を要求した太刀川がもぐもぐと口を動かすのを見ながら、出水が言った。
「太刀川さん」
「んー?」
「まーたあきらさん負かしたんすか」
「おう。今日は我ながら絶好調だった」
「やっぱりー。さっきあきらさん来たよ。唯我くん引きずっていっちゃった」
「またか~」
わはは、と太刀川が笑う。
A級一位太刀川隊隊長、そして個人総合ランク一位、ナンバーワンアタッカー。この男の肩書きはたくさんあって、そのすべては実力に裏打ちされている。
負けず嫌いのあきらはそんな太刀川によく挑み、よく負けるのであった。そしてボロクソに負けた日は決まって太刀川隊の作戦室に乗り込み、唯我、時々出水を引っ張り出して腹いせのようにランク戦に付き合わせるのである。太刀川に適わないので、せめて同じ隊服を着た男をぶちのめして冷静さを取り戻したいらしい。
自分のせいで部下が大変な目にあっているというのに、太刀川は我関せずという風にマフィンを頬張る。まあ実戦訓練の一環だろ、と言って、悪びれる様子がない。
しばらくして帰ってきた唯我は精神的肉体的に疲れ果てていてヘロヘロだった。
さすがに哀れに思ってドリンクを差しだし、次はおれが代わってやるよと言えば、後輩はなぜか首を横に振る。
「こ、これで高遠先輩の気が、少しでも晴れるなら……」
出水はぱちぱちと瞬きをした。
唯我という後輩は、これでなかなか健気な男であるらしい。