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佐鳥をからかう出水

暇である。任務までの暇つぶしが見つからない。同じく時間まで待機している出水とソファーに座って、佐鳥はずうずうとジュースを飲んでいた。

「そういえばさあ」

と、唐突に出水が切り出す。

「なんですか」
「昨日あきらさんとやった」
「へー………………ええ!?」

一瞬さらりと流しかけて、言葉の意味の重大さに気づくと、佐鳥は驚いて飲んでいたジュースを吹き出した。きたねっと出水が嫌そうな顔をするがそれどころではない。
やったって。やったって……何を!?
聞きたかったがショックすぎて声がまともに出なかった。
ちなみにあきらさんというのは、ボーダーの先輩の女の人のことだ。B級のアタッカーで、チームは今のところ組んでいない。年は佐鳥より三つ上だ。後輩がかわいいらしく、なにかとよくしてくれている、いいお姉さんである。
そんなあきらが、出水と。ふわっと憧れのようなものを抱いていたから、なおさら佐鳥は狼狽していた。

「待って、待って、出水先輩」
「ああ?」
「いつから!? いつの間に!? んでなんでオレに言うの!?」
「はあ? 前から時々やってたけど」
「前から!?!?」

出水はなんだこいつと眉を顰めていたが、かみ合わない会話のうちに佐鳥の勘違いに気がついたらしく、ああ、と手を打った。未だ慌てている佐鳥を見てにやにや笑う。

「なんか勘違いしてるみてーだけど、やったってランク戦な」
「えっ」
「なあ何と間違えたわけ? 言ってみろよ佐鳥」

途端に佐鳥はもごもごと口ごもり、顔が赤く染まっていく。「この童貞」だめ押しでからかってやると、先輩が紛らわしい言い方するからだめなんでしょ!と怒り出した。わはは、と出水が愉快そうに笑う。

「なに、何の話してんの」
「あ、あきらさん」

そこへあきらがひょっこりと顔を出したものだから、佐鳥は余計にいたたまれなくなった。頼むから今のことについては言ってくれるなよ、と出水を睨みつける。
出水はちらりと佐鳥を見てから、「佐鳥がバカだなーって話です」と言った。
もちろんそれで何かがわかるわけでもないので、あきらは不思議そうに首を傾げている。

「……まあいいや。あんたたちそろそろ交代じゃないの? 早く行きなさいよ」
「あっやべ。オイ、お前も行くんだろ」
「はい……」
「頑張ってね」

出水と佐鳥がそろって立ち上がると、あきらはひらひら手を振って、その場から離れようと動いた。その背中に、そうだ、と小さく呟いた出水が声をかける。

「あきらさーん」
「なにー?」
「今日、任務終わったらあきらさんち行っていい?」
「は!?」
「いいよーおいでー」
「ええ!?」

あきらはごく普通のことのように答えて、もう一度手を振ると、衝撃を受けている佐鳥をほったらかしてどこかへ去っていった。

「出水先輩どういうこと!?」

顔をぐるりと向けて問いかけてみるものの、出水は「さてどういうことだろうなあ」、とはぐらかすばかりで答えてはくれない。結局なんなの、もうこの先輩やだ、いやらしい、とぶつぶつ嘆く佐鳥の背中を、出水が上機嫌に笑いながらばしっと叩いた。