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ヴィザの思い出

覚悟を決めた人間の微笑みより美しいものはない。そうだ。あの時、目の前で見た彼女の微笑みこそ、今まで目に映した中で一番美しいものだった。

(墓はいらないわ。)

彼女は煙の幾筋もあがる遠くを見据えて、それから髪を揺らし、こちらを向いて笑った。ひどい顔、といつもの調子でからかう。その心には動揺も恐怖もない。声はいつもより澄んで聞こえた。もう誰にも止めることはできないのだと悟って、あの時自分はなんと言ったろうか。
 

「すごい」

ほう、と感嘆の息を吐いて、子どもがこちらを見た。小さな頭の横からは異形が顔を出していた。白く伸びる角はこの頃この国で行われている研究の粋である。確率は下がったとはいえ、まだ不適合の事例は残っている技術だが、この子どもは幸運だった。うまく馴染んで生きている。だから次代の兵士として期待され、歴戦の兵士であるヴィザの傍にこうして置かれているのだ。

「すごい、ですか」

穏やかに問いかければ瞳を輝かせて頷いた。

「とても美しいトリガーだと思います。国宝と謳われるのもわかります」

そうですか、と軽く笑って頭に手を伸ばした。ゆるゆると撫でてやれば心地よさそうに目を細める。
 

強いのも、美しいのも当然だ。
生前の姿とはかけ離れているとはいえ、黒トリガーは結局それの元の人間、そのものなのだ。

彼女は強かった。
彼女は──美しかった。
 

(──ヴィザ。傍にいて)
 

彼女はきっと国のためではなく、彼一人のために黒トリガーになった。その意志は焼き付いた時のまま変わることがないから、だからヴィザ以外の誰も、星の杖と呼ばれるこのトリガーを起動させることができない。

白い指も、しなやかな体も。いつも赤く色づいていたその唇も、何一つ残りはしなかった。流れる髪の一房でさえ塵になって消えた。
時が経てば記憶さえ少しずつ薄れていって、あんなに美しいと思った彼女の微笑みでさえ、もやがかかったようになって鮮明には思い出せない。

けれど彼女のそのすべては、形を変えてヴィザの手の中にあるのだ。今までもこれから先も、誰に奪われることもなく、あの時の彼女の望み通り──ずっと、傍に。