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ハイレインと同僚

家の者がやたら慌てているなと思ったのである。また野良猫でも入り込んだか、はたまた弟がなにかやらかしたか、と考えつつ我関せずでハイレインは休日を過ごす。
しかしそんな予想を裏切るように、喧噪はどんどんハイレインの自室へと近づいた。お待ちください、という声がする。そして共に聞こえるのは。

「ハイレイン!カメを出せ」

バン!と断りもなく扉が開く。そこに見えたのは、なんとも困った同僚の姿であった。

おろおろしている使用人に茶の用意を申しつけた。自室にアキラを迎え入れる。
ハイレインと同じく休みであるらしいアキラは、家にいるのが退屈でこっちに来たのだと笑った。
お前も退屈だったろう、本なんて読んで、と続けるが読書はハイレインにとって趣味である。暇つぶしというようなものではない。もちろんそのこともわかった上で言っているのだろうけれど。

アキラは小脇に分厚い図鑑を抱えていた。まだ紅茶の到着しないテーブルにそれを広げ、これが見たいと指をさす。

「ゾウガメだ」

大きな亀である。
立派な甲羅から太い四肢、そして頭がにゅうっと伸びている。いつかランバネインが飼うといってどこぞから持ち帰ってきた亀とは迫力が違った。

「いいか、大きさが大事だぞ。これくらいだ」

両手をいっぱいに開いてアキラは興奮気味に息を吐いた。大きいんだ、子どもくらいあるんだぞ、と子どものように言う。

「……今日俺は休みなんだが」
「それがどうした」
「休みの日にまでトリガーを使えと言うのか」
「休みの日だからだろうが!いいかハイレイン、亀はのろいんだ。実戦では使えんのだ。休みの日にしか出せない」

だから出す意味がそもそもないだろう。

思うがアキラに引く様子は全くない。厄介な相手である。ため息を吐くと片眉を吊り上げた。そういう顔をしたいのはこちらの方だ。

「大体トリガーは使えるだけ使っておいた方がいいんだ。お前だってもう若くはないんだぞ。使って鍛えねば衰えるばかりだろう」
「……」

一理あるような気がしないでもないが、だからといってアキラの好奇心を満たすために使うのが正しいとは思わない。

「その理論で行くと、お前もトリガーを使うべきではないのか」
「私のトリガーは戦闘にしか使いようがない」

お前の屋敷を破壊していいというのならやってもいいが、と言いながら、アキラはポケットに手を突っ込んだ。ごそごそとトリガーを取り出すのでやめろと言っておく。

「ならはやく出せ」

アキラは脅すようにトリガーを手に持ったまま、ハイレインを見た。

押しが強いというか、無茶苦茶というか。
大変なものを同僚に持ってしまった。

「……」

ハイレインが無言でトリガーを起動した。アキラが無邪気によしきたと喜ぶ。
目の前に現れた白く光るゾウガメをつつきながら、お前のトリガーは愉快でいいなあ、とアキラはころころ笑っていた。