婚活も就活も、昨今では早期化が進んでいるようだ。人よりいいものを手に入れようと思ったら、人より早く行動せよと、どうもそういうことらしい。
「太刀川さん、わたしが大きくなったら結婚してね!」
「ええ……いや、無理かなー」
「ボンキュッボンになるから!」
A級一位チームの隊長、個人総合ランク一位、アタッカー個人ランク一位という輝かしい成績を上げる太刀川は、ちゃんと話してみればそうではないが、近寄りがたいと評判の男である。彼は今ほとほと困っていた。
腕にまとわりついた、ついこの間十歳になったばかりの少女が原因である。
「えー、まずさ、年の差考えようか。俺二十歳、あきらちゃんは十歳」
「それくらい年離れたカップルくらいいくらでもいるもん!」
「……ボンキュッボンってなに。なれるの?」
「お母さんがそうだから、わたしもなるもん」
なぜこんな子供がボーダー本部にいるのかというと、彼女がボーダー上層部である唐沢の姪っ子だからである。珍しく困り顔の唐沢に手を引かれ、自分を興味深げにみるたくさんの大人に怯えも見せずにこにこ笑うあきらの姿はまだ記憶に新しい。
なんでもトリオン量が人より多いとかで、研究への協力と、保護とをかねて放課後は大抵本部に顔を出し、技術部だとか隊員たちが集うロビーだとかで遊んでいるのだった。
子供の預かり所じゃないんだぞと太刀川なんかは思うが、愛想が良く、素直で頭も悪くないあきらは大人たちをはじめどこに行ってもかわいがられている。
厭うているのは今現在迷惑を被っている太刀川くらいのものらしい。
早すぎる婚活とその剣幕に一歩引きながら、太刀川がよーし、と話を切った。
「あきらちゃんはなんで俺と結婚したいんだ?」
重要なのはそこである。年上男性への憧れが理由、それならかわいらしいし微笑ましい。しかし、
「エリートだから!」
あきらの場合はこうであった。
「あきらちゃんは色々間違ってる。結婚は好きな人とするもんだ。まずあれだ、ボンキュッボンを売りにして男を釣るのは間違ってる」
「男なんて所詮顔と身体しか見てないってお母さんが言ってた。だからこっちもエンリョなくしっかり品定めしてやりなさいって」
「……収入で結婚相手を選ぶのも間違ってる」
「愛は変わるけどお金の価値は変わらないってお母さんが……」
「よしわかった、もうやめよう」
「えー」
一体子供にどういうことを教えているのか。と思ったところで、そう言えばこの間あきらの名字が高遠から唐沢に変わったことを思い出して、太刀川はもうこの話題はきっぱりやめようと決意した。
ポケットから財布を取り出して、五百円玉をぷうぷうと頬を膨らませるあきらに握らせる。売店で好きなもの買ってきたら、と提案すると顔がぱあっと明るくなった。
「ありがとう! やっぱり男はお金だよねー!」
売店に向かって走っていくあきらの後ろ姿を見ながら、今のうちにどっか行こうとこっそり立ち上がった太刀川は、子供の教育には向かない男である。たぶんあきらの母親ほどではないけれど。