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ひどい犬飼

「なんだっけなあ」

犬飼澄晴という男があまり好きではない。チームメイトというのは同僚みたいなもので、選ぶのは私のような使われる側の人間ではなく隊長である二宮さんだから、それは仕方ない。
いつも何が楽しいのかくっと上がっている口角、皮肉っぽい口調、細められた目。全部全部気に入らなかった。

今みたいに二人きりで作戦室にいる時なんて最低だ。
雑誌を読んで気を逸らしているのに、犬飼はわざわざソファーの隣に座ってなんだっけなあ忘れちゃったなあと言いながら私の顔をじろじろ見ていた。

「……何をですか」
「高遠ちゃんに言いたかったことがあったんだけど。でも忘れちゃった。ごめんね」
「別に」

きっとろくでもないことなんだから忘れてくれた方がむしろ私のためである。

この人から離れたいし、あと喉が渇いたので、コーヒーの用意でもしておこうと立ち上がった。
もうすぐ二宮さんも、他の二人もやってくるはずだし。
二宮さんもきっと、いつも通りコーヒーを飲むだろう。すぐに差し出せるようにしておきたかった。
 

「あ」

背を向けたソファーの方から、暢気そうな楽しげな声がする。

「高遠ちゃん、思い出した」
「……」
「なんだったんですかって聞いてくんないの?」

聞きたくない。
でも一応先輩である人の機嫌を損ねるのは嫌だったから、少し振り向いて、笑っているその人の顔を見た。

「……なんだったんですか?」
「二宮さんは高遠ちゃんを好きにならないよ」
「……」
「って、言おうと思ったんだった」

思わず固まった私を見て満足そうな顔をしている。

「叶う見込みないし、何よりかわいい後輩だし、傷が浅いうちに教えといてあげた方がいいかなって」

いかにも親切心です、というような口振りの癖に笑いを浮かべているのだから救いようがない。
 

「…………犬飼さん」
「んー?」
「私、あなたのことすごく嫌いです」
「あはは」

知ってるよ、といつもの軽い調子で、犬飼澄晴は笑っていた。