※変としか言いようがない
物心ついた時にはすでに、あきらはいつでも迅の側にいた。
それは多分人ではないし、実際迅以外の人間には見えていなかった。
あきらはいつもにこにこと迅を見つめていて、時々思い出したように小さな迅のそばにしゃがみ込み、耳元に唇を寄せて言うのだ。
「明日は雨になるわ。」
「庭のお花がもうすぐ咲くわね。」
「今日のおやつはチョコレートよ。」
あきらの言うことはなんでも当たった。すごいすごいと目を輝かせると、あきらは嬉しそうに笑って、もっとたくさんのことを囁くようになった。
「先生は風邪をひいてるみたい。」
「仲良しのけんちゃんが怪我をするわ。」
「化け物が来る」
あきらの言うことはなんでも当たった。いいことも悪いことも、怖いことも楽しいことも。
他の人が嫌な目にあうことを教えてもらったとき、とても心配になって、直接注意をすれば変な顔をされた。当たっても当たらなくても、段々と、迅の周りからは人がいなくなった。
「──ああ」
あきらの言うことは。
「お母さんが死んでしまうわね」
あきらの言うことは、なんだって当たった。
あきらの囁く未来が役に立つと知ったのは、最上と出会い、ボーダーの一員になってからだ。
たくさんの人の不幸も、身近な人の幸せも、あきらはわけ隔てなく話した。迅はそれをひとつも聞き逃さないように努力した。
二人きりの部屋で、ベッドの端に座ったあきらが、足をブラブラ揺らしながら楽しそうに話している。
「あのね、白い子が来るわ」
「白い子?」
「髪が白いの。瞳だけ赤いわ。うさぎみたいね」
「……その子が何をするのか、わかる?」
「戦うの」
「おれたちと?」
「いいえ」
「…………味方かな?」
「めがねの子と、小さな女の子の味方だわ。その子たちのために戦うの。その子たちのためなら、何を失ってもいいと、きっと思ったのね」
少しだけ悠一に似ているわ。似ているから、その子が少し好き。
にこにこと笑うあきらが、何と呼ぶべき存在なのか迅にはわからない。
幽霊のようでもあるし、妖怪のようでもあるし、神様のようでもある。
きっと大して違いはないのだろう。
誰かが死ぬかも知れないと続けて告げられて、迅は思わず黙り込んだ。
回避策を聞くべきなのに、のどに何か詰まったようになって、言葉が出てこない。
あきらは心配そうに迅の側にやってきて、元気づけるように言う。
「悠一は死なないわ。大丈夫、大丈夫だから」
その言葉が、本当に迅への慰めになると。
悪意なんて欠片もなく、あきらはただ信じている。