つまらない授業をぼーっと受けているあきらの視界で、前の席に座る小南の髪が一房、誘うようにゆらゆら揺れる。
どんなに突拍子もないことを言ってもだいたい信じてくれる小南は、意外と勉強ができるし、授業もあきらと違って真面目に受けていた。黒板を見、熱心にノートに書き写す拍子に、ゆらり。
まるでねこじゃらしに寄せられる猫のごとく、あきらの手はごく自然にのびた。
「!!」
くいっと引っ張ったら、当然小南の頭が後ろにかくんと揺れる。声を押し殺して驚いた小南の髪からすっと手を離す。ノートをとっていたふりをしつつ、抗議のために後ろを向いた彼女に、いかにも不思議です、という顔を向けた。
「どしたの?」
「……今、あたしの髪引っ張ったでしょ」
「何言ってんの。知らないよ。授業中にそんなことしないって」
「……ほんとに?」
「ほんとほんと」
真っ赤な嘘である。
首を傾げて前に向き直った小南の頭には、疑問符がいくつも浮かんでいた。
そしてもう一回。
「……!?」
さっきよりも速く振り向いた小南に首を傾げて見せる。小南が前を向く。
また。
「……やっぱりあきらでしょ!?」
眉根を寄せて、小声で尋ねてくる小南に、違うよーと返す。
「あんたしかいないでしょ」
「……そうだね。小南の後ろには、私しかいないはずだね」
「そう……あきらしかいない……はず……」
はず、ともう一度繰り返すと、小南の顔がさあっと青くなった。
あきらしか後ろにいないのに、あきらはやっていないという。じゃあ誰が?……おばけ?
付き合いがそこそこ長い上、単純な方である小南の思考は読みやすい。それきりぎゅっと唇を結んで、前を向いた小南は、ノートも取らずにぷるぷるしていた。心なしかゆらゆら揺れる髪まで、うなだれているように見えた。
──あんなに大きな近界民には、笑みさえ浮かべて向かっていくのに、おばけなんてあるのかないのかわからないものが怖いのだ。
さすがにかわいそうかなあという気持ちと、やっぱりかわいいなあという気持ちがない交ぜになって、あきらはなんだか楽しくなってきた。
次の休み時間に種明かしだ。鞄に入っている飴をあげたら、小南は許してくれるだろうか。