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絶望にもかたちがある/迅

あきらは近界に行きたがった。腕を磨き、戦術を学び、それが必要ならと、仲間のトリオン体を傷つけることさえ少しも躊躇わなかった。
彼女は失ったものをすべて取り戻したかったのだ。あの日いなくなった父親も母親も弟も、死体が見つからない以上、どこかの国で一緒に生きているのだろうから、なんとしてでもそこに行きたかった。
だからこの上ない努力をした。チームを作り、A級に上がり、遠征に向けての選抜試験を受けた。でも駄目だった。

実力が足りなかったわけではない。彼女が近界に行けば、そのまま戻ってこないだろうと上層部が判断した、それだけだ。
腕を磨き戦術を学んだ彼女は強くなりすぎた。失うわけにはいかない人材になってしまった。
 

「はは」
 

遠征への参加が取り消しになったと。
そう通達を受けたとき、彼女が漏らしたのは乾いた笑いだったと、あとで彼女の部下から聞いた。

 

「……よう、久しぶり」

最上に挨拶をするついでに、いつも寄っていくところがある。彼女の体のひとかけらも眠っていない、やけに立派な墓の前だ。

通達を受けた次の日の朝、彼女はもう生きていなかった。すっかり形を失った灰の中にひとつ、奇妙な姿をしたトリガーがあって、それが彼女の成れの果てだった。
それを起動することは誰にもできなかった。彼女と仲の良かった誰にも、彼女のチームメイトも。迅にも、今は。

『いつか向こうに連れて行ってね』

彼女が死んだあの夜に、自分の携帯に留守電が入っていたことは、誰にも言っていない。
でも、だからいずれは、あきらの黒トリガーは迅に使われることを望むだろう。今はきっと待ってくれているのだ。まだ、風刃を手放すわけにはいかないから。

「なあ、あきら」

今はゆっくり眠ってるか。
 

できればそうであってほしいと、空っぽの墓の前で迅は祈った。