うまくいかないなあ、と額についている小さな角に触りながら思う。
同じように植え込まれながらも、他の人たちのように大きくなることさえなかったこれは、アキラにとってうまくいかないものの象徴だった。
トリオン能力というのは、必ずしも遺伝するようなものではないらしい。
確率的に、トリオン能力の高い両親を持つとその子どもにそれが引き継がれることは多いらしいが、それでもいくらか例外はあった。
例えば庶民に生まれながら拾い上げられたヒュースのような。
例えば、領主の娘に生まれながらも、ほとんど役に立たない程度のトリオン能力しか持たない、アキラのような。
アキラは役立たずだ。
古い血筋と、広い部屋と、暖かい布団とおいしい食事に恵まれているけれど、役立たずなのだった。
部屋を出て歩けば使用人が頭を下げる。アキラを見れば柔らかな笑顔を浮かべてくれる、この人たちが大好きだと心底と思う。
アキラはこの国の人々を愛していて、風がそよぎ草木が育つこの星が好きで、自分の手で守ることができたらと思っていて、だからこそ、うまくいかないなあと嘆く。
アキラはこの優しい人たちに、何にも返してあげられないのだ。
「──無力なものが、」
いつか兄が言った。優しくアキラの頭を撫でた。
「その無力さ故に、他人を救うことは、よくあることだ」
そうかなあ。
「命を賭して戦うためにはなぁ、アキラ」
もう一人の兄は、アキラの体を軽々と抱き上げてくれた。
「理由がいる。お前はおれが戦う理由のうちの、一番大きなものの一つだ」
そうなのかなあ。
兄たちは、アキラを無能と言ったりしない。そのままでいいと、自分たちの無事を願い、喜んでくれたらいいと言う。とても優しい兄たちがアキラは大好きだから、望むとおりにしてあげたいと思う。
けれど。
エネドラは死んでしまった。
金の雛鳥は手に入らなかった。
ヒュースは戻ってこなかった。
エリンの当主は神になり、このことはいずれ後世に遺恨を残すだろう。
「……トリオンがあればなあ」
トリオンがあれば。
アキラは神様になれるのに。
大好きなみんなのために、喜んでこの身を捧げることができるのに。
誰よりも役に立たない。だからこそ誰かの役に立ちたいと心から思っている。
世の中うまくいかないなあと、アキラはひとりごちながら、頭に生える、小さな角をそっと触った。