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遊真と夜を過ごす

今日も平和な、いい夜だ。玉狛支部のある辺りは明かりも少ないから、瞬く星がよく見える。
任務のない夜、遊真はこうして外に出ることが多い。
だって部屋に一人でいても、つまらないのだ。
誰もいないことには変わらないけれど、空は時間によって少しずつ変わっていくから、何もないよりはいい。

レプリカがいなくなってから、一番変わってしまったのは、夜の過ごし方かもしれない。
昔は、どこかの神様が動かすいくつもの星を見上げて、ずっと二人で話をしていた。誰かをうまく殺すための話を。

「寝れないの?」

ふと後ろから声をかけられて、遊真はゆっくりと振り返る。上着を着込んで、白い息を吐き出すあきらがいた。

「あきらさんとは。めずらしい」
「なにがだ」
「だっておれ、まだ二回くらいしか会ったことないよ」

あきらは玉狛の隊員ではあるし、ほとんど支部にいるけれど、なかなか姿を見ることはない。夜型なんだと烏丸が言っていた。
昼間は眠って、夜に起きて、ずっとパソコンと向かい合っていると。
玉狛第二の面々とは、挨拶を辛うじてしたくらいの面識しかない。

「そうだっけ。まあ実は今あんたの名前が分からなくてさ」
「遊真だよ。空閑遊真」
「そうだったそうだった」

あきらが愉快そうに笑う。そしてもう一度、今度は「寝なさいよ」と言った。

「明日も学校でしょ」
「うん」
「だったらそろそろ寝なさいよ」
「眠れない」
「なんと」
「おれはトリオン体だから、眠る必要がないんだって」
「それは」

あきらがすっと目を逸らした。
遊真はじいっとあきらを見る。

「……つまり、時間潰しをしてるのかな」
「そういうこと」
「じゃあまあ、そっか、うーん…………」
「なに?」
「……私のラボ、来る?」
 

それが最初だった。
 

あきらは聞いていた通り、夜の間起きていて、朝が来ると自分のベッドの上で小さく丸まって眠った。
遊真は任務のない夜にはあきらのごちゃごちゃしたラボにやってきて、パソコンのキーボードやトリガーに夢中になっているあきらと時々短い会話をする。あきらが眠る時には毛布をしっかりかけてやって、部屋を出た。
そうして今度は、みんなのいるにぎやかな昼間を過ごすのだ。

「おっ遊真だ。おはよう」
「こんばんはだよ」
「さっき起きたからおはようでいいの。ココア飲む?」
「飲む」

そんな繰り返しのうちに、あきらはとても自然に、遊真の名前を呼ぶようになった。
あきらは時々作業中に眠りこけるし、集中しすぎると遊真が話しかけても全く答えない。いつも遊真を第一にして、相手をしてくれたレプリカとは違う。
でも。

「あきらさん」
「うん?」
「ありがとう」
「ん、おかわりもあるよ」

ココアを差し出してあきらが笑う。違うのに、と笑いたくなる。
今日もあきらはパソコンに向かって、遊真にはよくわからないプログラムとやらを一人黙々と組むんだろう。
でも不思議なことに、退屈はしないのだ。一人きりで空を見上げたときの、心が凍るような時間は、もう随分過ごしていない。