派手に首など飛ばされた後は、どうも生身に戻ってからも違和感が残る。真一文字に切り裂かれたその線が、まだそこにある気がする。ちゃんと繋がっているか不安になる。
個人ブースのベッドの上で首元をさすっていたら、ドアが勝手に開いた。ついさっきあきらの首を切り落とした張本人、太刀川が、よお、と声をかけて中に入ってくる。
「帰るぞ。俺腹減ったし」
「……」
「黙ってないで早く起きろって。もう本部に用事ないだろ」
無言で体を起こして、あきらは荷物を取った。露骨に不機嫌に振る舞われ、太刀川が苦笑いをこぼす。
原因は先ほどまでのランク戦に違いない。あきらは完璧に負けた。ことごとく負けた。太刀川は切り傷さえまともに受けていない。とはいえ彼はボーダー内で現在個人総合ランク、アタッカーランク共に頂点に立っている人間なのだから、ボロボロに負けたといってもあきらが特別弱いというわけではないのだ。それでも気に入らないのは、あきらが負けず嫌いであるからだろう。
「拗ねるなよ」
「別に」
そう返しながらもちっとも別にはなっていない。
「なんだよ、手加減してほしかったのか?」
「違う。自力で腕の一本くらい取りたかった」
「そりゃ無理だ」
「痛いわけでもないのに。どうせトリオン体でしょ」
「プライドの問題」
お前程度に腕なんて取られるわけにはいかない、ということである。あきらは特別弱くはないが、また同時にそう強くもない。本来なら模擬戦も受けてもらえないかもしれない、それくらいの実力差が二人の間にはある。
じっとりとあきらが太刀川を見上げた。なんだよ、と尋ねる太刀川の後ろに素早く回ると、薄いシャツの上から背中を思いっきり引っかいた。太刀川が悶絶する。
「いっ……!!!」
「……生身の傷は許すのに」
この大きな背中には、昨日できたばかりの傷がたくさんある。それをあきらは知っている。
太刀川は一通り悶えた後、大きく息を吐き、痛みを逃すようにしてからあきらを見た。
「これはあれだ、勲章だから」
「痛いのが好きってこと?」
「人を変態みたいに言うな」
太刀川はぐりぐりとあきらの頭を乱暴にかき回した。撫でるというより、上から押さえて、縮ませているという表現が正しい。
今日も来るだろ、と楽しげに言われて、あきらは少し考え、結局頷く。こうなったら、その勲章とやらをもっと増やしてやろうというわけだ。
太刀川にランク戦で勝てる人間は実のところ何人か存在する。しかしこうして、太刀川の生身に傷を付けられるのは、今のところ、あきら一人しかいないのだった。