所属隊の会議に遅れそうだったのだ。
隊長の二宮さんは怖いし、犬飼先輩は私が怒られていてもフォローなんてしてくれないし、辻くんはまだ私に慣れていないとかでまず目を合わせてくれない。味方といえるのはひゃみちゃんだけだが彼女も怒るところは怒る子だ。
したがって本部の廊下を、人気がないのをいいことに走っていた。
「!!」
「おっ」
ら、曲がり角で人にぶつかってしまった。
多分相手はトリオン体だったのだろう。
生身の私は衝撃でよろけ、しかも足を滑らせて体が後ろに傾いた。
やばいこける、と思って反射的に目を閉じたのだが、不思議なことに、痛みがやってこない。
「……?」
おそるおそる目をあけると、近くに人の顔が見えて驚く。腰あたりに腕の感触もあって、ひえっと変な声が出た。
「……自分なあ、廊下は走ったらあかんて、小学校でも習ったやろ」
「は、はい、あの、えっと」
ごめんなさい、と謝るとため息をつかれた。顔が近い。
生駒隊の水上先輩だ。関西の人の話し方は語気が強くて、いつも怒っているようで苦手なので、あまり関わったことはないけれど。
体勢を立て直してとりあえず離れたが、行ってもいいのかどうか判断がつかない。
固まっている私を見て、「なんで急いでたん」と水上先輩が聞いた。
「あっ、えっと、あの、会議があって。遅れそうで」
「二宮隊の?」
「そうです。よ、よくご存じですね……」
「二宮さんたしかに厳しそうやけどな。ええか、急がば回れやで。変に慌てるとこうやって事故ったりすんねん」
「はい……」
言い分ごもっともである。もう一度すみません、と謝ると、水上先輩が笑った。
「まあええよ。今回は役得やったし」
「役得?」
「こっちの話や。それより高遠ちゃん、急がんでええん?」
「……ああ!そうだった!」
「早歩きでいきやー」
「はい!」
言われた通り精一杯の早歩きでその場を離れた。
別れ際にお辞儀をしたらひらひらと手を振られる。
……にしても名前まで知られているのか。
関西弁、思ったより怖くなかったなあ、と思いながら歩いていると早歩きを忘れていた。
会議に遅れた私は結局二宮さんにちくちく怒られることになり、ひゃみちゃんには注意を受け、犬飼先輩には笑われた。
辻くんがやっぱり目を合わせてくれない。